TOUR

【山手線ツアー】新大久保

2023.2.26
https://accesspoint.jp/reports/yamanote-sinokubo/

日時:2023年2月26日(日) 10:00~12:30

見学場所:《淀橋教会》(稲冨建築設計事務所、1998)、《新宿ホワイトハウス》(磯崎新、1957)、《東京グローブ座》(磯崎新、1988)、《GUNKAN東新宿ビル》(渡邊洋治、1970)、《三経82(旧二番館)ビル》(竹山実、1970)、《三経75(旧一番館)ビル》(竹山実、1969)

参加者:8名

ナビゲーター:和田菜穂子

 

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JR山手線新大久保駅前に集合し、今回のツアーが始まりました。新大久保、新宿周辺のポストモダン的建築を鑑賞して歩くツアーであった今日は、晴天の空に程よく吹き抜ける風が心地よく、絶好の街歩き日和となりました。

 

新大久保駅から西に歩くこと約5分、最初に訪れたのは《ウェスレアン・ホーリネス教団 淀橋教会》です。稲冨昭氏の設計で1998年に竣工したプロテスタントの教会であり、様々な国の礼拝や講演会が行われるなど、イベント・集会等多様に用いられています。大きな門構えの入口正面から奥に進むと、美しいコンクリートシェル構造が目を惹きます。裏側に回り、大久保駅のホームからは教会の反対側がよく観察できました。ホームに面した形で三角形の窓が突き出ており、その左右に広がりのある美しいシェル構造は丹下健三設計の《東京カテドラル聖マリア大聖堂》との類似を感じました。また大久保駅前には地名である「百人町」の名前の由来となった歴史が壁に記されており、より街についての知識を深める事もできました。

 

次に南東の方向に歩く事約15分、磯崎新氏設計の処女作ともいわれる《新宿ホワイトハウス》を訪れました。1957年、芸術家・吉村益信のアトリエ兼住居として建てられたこちらの建築は、その後画家・宮田晨哉の住宅として用いられ、さらに2013~19年にかけてはホワイトハウスの特徴である三間立方の吹き抜け空間を活用したカフェとして、一般人も立ち寄ることのできる場所となっていました。現在は、芸術集団Chim↑Pomがアートスペースとして活用しており今回は中を見学する事はできませんでしたが、元々の建築を活かしながら用途に合わせ今後も有効に活用されることを望む名建築であると感じました。

 

また北に進むこと約20分、次に訪れたのは1988年開館の磯崎新氏設計《東京グローブ座》で、こちらは演劇やミュージカルなどが行われる円形の劇場です。入口正面でまず目を惹いたのは、無造作に柔らかい曲線を描くワイヤーを用いたオブジェ作品〈うつろひ〉です。この作品を手掛けたのは磯崎新の妻であった宮脇愛子であり、この東京グローブ座だけでなく、群馬県立近代美術館や奈義町現代美術館など他の多くの磯崎新設計による建築において宮脇愛子氏の〈うつろひ〉との美しいコラボレーションを鑑賞することができます。風に吹かれて優しく揺れる様子はまさに、時間を忘れ光景の移ろいを感じる美しい作品であると感じました。

 

そして次に向かったのは、南東に約20分歩いた場所にある《GUNKAN東新宿ビル》、通称「軍艦マンション」です。1970年に竣工した、陸軍船舶兵出身の渡邊洋治氏設計のマンションで、現在はシェアハウスやオフィスなど多様に活用されています。正面からビルの壁面を見上げると、その鉄筋コンクリート造剝き出しのごつごつとした重厚感に圧倒されます。離れて見ると、屋上に聳え立つまさに軍艦のような給水塔が異彩を放ち、この建物の名称にもなっている「軍艦」を連想させます。老朽化に伴いリノベーションが行われたり、壁面にペパーミントグリーンの塗装がされたりなど、年月が経つとともに少しずつその見た目を変化させているところにも注目したいと感じました。

 

最後に訪れたのは、軍艦ビルから歩く事5分ほどの場所にある竹山実氏設計の《三経82ビル》(1970年)と《三経75ビル》(1969年)です。グレー地の塗装に黒や白といった様々な太さの縞模様が描かれた特徴的なこちらの2棟の建築は、一様な直方体ではなく所々に凹凸があったり幾何学的な形状をしていたりと特徴的な構造をしていました。

 

約2時間半をかけて新大久保・新宿・歌舞伎町周辺を歩き、様々な建築を鑑賞しましたが、多くの気付きがあるツアーとなりました。週末ということもあり、大通りは人出が多く賑わっていましたが、数本道をそれた静かな場所に今まで知らなかった名建築がある事や、今まで何気なく通っていた道でもふと意識を向けると面白い建築があるという事に気付き、興味深かったです。また数年の間で取り壊されたり、改築される有名建築も多くあり、こうした街歩きを通して今ある建築物を鑑賞しその移り変わりを感じながら建築に向き合う事もまた、建築をより深く学ぶ楽しさであると感じました。

 

レポート:田中渚紗

(慶應義塾大学1年)