日時:2020年8月18日(火) 20:00~21:00
見学場所:アルヴァ・アアルト《マイレア邸》1939年
ナビゲーター:和田菜穂子
今回の《マイレア邸》のヴァーチャルツアーは、パイミオのサナトリウム、アアルトの自邸に続く、北欧建築紀行シリーズの第3弾です。YouTubeにある予告編では、和田先生が夏に訪れたときの外観の写真を見てきましたが、このヴァーチャルツアーでは、普段は公開されていない冬のときの写真も交えながら見ていきました。夏には活き活きとした緑が生い茂っており、冬の青白い雪が降り積もるというようなフィンランドならではの季節感と、白い壁や黄色みがかった明るい色の木材がマッチして、とても色彩豊かな住宅だと感じました。
アアルトらしい自然との調和という観点においては、柱の配置も特徴的でした。林の中のようにリズミカルに配置された柱が奥行きを感じさせ、玄関を開け放つと、周囲の松林が家の中まで連続しているような印象を受けました。また、リビングから中庭に面した窓も開放でき、その近くに暖炉などの人が集まる場所を設けることによって、家の中と外が溶け合うような空間づくりを意識したのではないかと思います。
この住宅が建てられた時期のアアルトは日本建築に興味を持っていました。サウナ小屋は茶室のようなデザインだったり、西側の窓に簾をつけ、プールに反射した光を緩やかに取り入れたり、ウィンターガーデンには違い棚のような棚があったり、可動式の壁の上部は光を取り込めるしつらいの、欄間のようなパーテーションがあったり、随所に日本っぽさを感じられます。1階の大部分がひと続きの大空間になっているのは、日本家屋のようであり、アアルトらしさでもあります。段差や、床と天井の素材の違いで緩やかに空間を区切るというのは、アアルトが他の建物でもよく使う手法です。
《マイレア邸》は和田先生が世界で一番好きな住宅ということで、バックグラウンドなどについても詳しく説明してくださいました。クライアントのグリクセン夫妻の妻のマイレはピカソやレジェとも親交のあるアートコレクターであり、生活の中にアートを融合するという実験的なコンセプトで設計されました。マイレはのちにアアルト夫妻とともにアルテックを立ち上げる人物であり、この頃から深い信頼関係がありました。この信頼関係があったからこそ、時間をかけて綿密な設計ができ、このような素晴らしい住宅が生まれたのではないでしょうか。
レポート:三上佳祐(学生インターン)
慶應義塾大学理工学部2年