日時:2024年1月10日(水)10:00-12:00
見学場所:《繁柱の家》(深尾精一設計/1996年)
参加者:12名
ナビゲーター:和田菜穂子・種田元晴
今回は首都大学東京(現東京都立大学)名誉教授の深尾精一さんのご自邸「繁柱(しげばしら)の家」の見学会です。2時間たっぷり深尾先生から講義いただきながらご案内いただくという大変贅沢なツアーでした。
敷地は荻窪駅から15分ほど北上した閑静で道のうねった道路に面した角地です。途中、教会通りにある建築家でソムリエの堀川秀夫さんが設計し経営されている「東京スパイスミュージアム」(2018)の前を通り、アバンギャルドな店前空間に度肝を抜かれつつ先へ進みます。病院を超えてしばらくいくと、昭和初期の和洋並列住宅や巨大な屋敷がいくつか建ち並んだ住宅街に入ります。そのすぐ先に「繁柱の家」がありました。曲がった道から徐々に見えてくる、4寸角の桧と杉が1寸の隙間をあけてサインカーブを描いて並ぶ壁面は圧巻です。
「繁柱の家」は深尾先生が生まれ育った土地に建っています。もともと建っていた家を、結婚を機に改装し、さらにその後建替えて最初のご自邸「沓掛の家」(1980)ができたそうです。そこに寄り添うように15年後、「繁柱の家」(1996)が増築され、さらにその後2世帯住宅にするために「沓掛の家」が「沓掛の家2」(2014)として改修され、現在に至っています。「繁柱の家」と「沓掛の家2」は内部で繋がっています。家は左右で二分割されていますが、暮らしは上下で分割されて、1階を深尾先生ご夫妻、2階をご息女家族がそれぞれ使われています。「沓掛の家2」の設計の際、奥様とお嬢様より、最初の2回は深尾先生の自由に設計されていたもので、そこには家族の希望が入っていなかった、と言われたとのことで、この時には深尾先生(設計者)とお嬢様(施主)の間にコーディネーターをたてて、お嬢様の要望に従って設計されたというエピソードを伺いました。そのほか、深尾先生の師にあたる内田祥哉先生が最初の「沓掛の家」にこられた際に「深尾君の家の玄関は、お便所のマークなのね」と言われたという、ユニークな形をした玄関扉を「沓掛の家2」では実際にトイレの扉として再利用されたというお話も興味深いものでした。このように、物語が随所に隠れた点も深尾先生のご自邸の魅力のひとつでした。
とにもかくにも、「繁柱の家」には、その随所に、建築構法がご専門でいらっしゃる深尾先生ならではの工夫が満ちています。とくに、30mmの隙間に納められた、つきあたりの大きなサッシのディテールが見どころで、これには名だたる建築家たちもうなったとか。そのほか、照明やコンセントなどもすべてこの30mmの隙間にきれいに納められています。ひととおり見学させていただいた後は、お正月ということで、1階の「沓掛の家2」のリビングにて、明治神宮の御神酒が振る舞われ、みなで味わいました。ごちそうさまでした。最後に、「繁柱の家」に飾られた、ご同級であられたという画家エム・ナマエ氏の全盲後の絵画についても紹介されました。深尾先生のサービス精神に溢れる「講義」に聞き惚れた2時間でした。
帰りがけに、参加者のうちの何人かの方々と、たまたま杉並区立郷土博物館分館で開催されていた杉並区内の建築模型展も覗いてきました。杉並区内にはこんなにもたくさんの名建築があったのかと、大変勉強になる展示でした。荻窪周辺にも魅力的な名建築はまだまだあります。今回は時間の都合で回りきれませんでしたが、またの機会にツアーを企画してご案内したいと思います。ご期待ください!
レポート:種田元晴