TOUR

アントニン・レーモンドを巡る高崎ツアー

2020.02.21
https://accesspoint.jp/reports/raymondtakasaki/

日時:2020年2月21日(金) 9:00-16:00
見学場所:《群馬音楽センター》アントニン・レーモンド(1961)、《シンフォニーホール》レーモンド事務所(1991)、旧井上房一郎邸(1952)
参加者:15名
ナビゲーター:和田菜穂子


レーモンドが戦後に手がけた、高崎にある二つの建築を巡りました。ひとつはコンクリート折板構造の《群馬音楽センター》です。戦後は師フランク・ロイド・ライトの影響は影を潜め、独自のデザイン展開を試みます。とくに折板構造は戦後の挑戦的取り組みの一つで、カトリック目黒教会(聖アンセルモ教会)で最初に試み、次にこのコンサートホールでさらなる展開を試みました。ホールでは内側に照明を仕込み、敢えてジグザグ感を強調させています。観客を出迎えるホワイエ空間には大きな壁画を設け、幾何学デザインが目を惹く二つの階段によって、人々を上下階へ誘います。今回は特別にバックヤードや会議室なども見学させていただきました。床のデザイン、照明デザインなど、部屋ごとにバリエーションをつけていました。

 

その後、レーモンドの死後に事務所が手がけたシンフォニーホールも見せていただきました。音楽センターとの調和に配慮したデザインです。幸いにも市庁舎の最上階から、ホール全形を俯瞰することができました。屋根のジグザグや配置がよく見えますので、見学の際は合わせて市庁舎に行くことをオススメします。

 

次に《旧井上房一郎邸》を訪ねました。ここでは高崎市美術館の塚越館長にご案内していただきました。自身が建築出身ということもあって、鋏状トラスの仕口の高度な技術、「芯外し」と呼ばれる景観を見渡せることを重視した開口部デザイン、垂木のピッチのこだわりなど、建築関係者が喜ぶ内容を盛り込みながら、丁寧に解説していただきました。

 

井上は芸術に造詣が深く、ブルーノ・タウトと共に工芸デザインの仕事に携わるほか多くの芸術家のパトロンとなり、彼らの活動を支援しました。レーモンドの《笄町の自邸兼事務所》を訪ねた井上はいたく感銘を受け、同じものを作りたいと依頼しました。レーモンドの承諾をとり、井上は自身の建設会社の職員を連れて、レーモンド自邸の実測を行います。そしてその実測図をもとに東西を反転させた家を高崎に建てました。現在、東京のレーモンド事務所にはリビングルームのみを移築し、メモリアルルームとして保存していますが、高崎市美術館では庭も含め、完全な状態で井上邸は保存されています。パティオを挟んだリビングの反対側には、メモリアルルームでは窺い知れなかった寝室、旧井上邸オリジナルの和室の他、庭に面して檜風呂が置かれたバスルームや台所なども見ることができました。水まわり博士のわたしはそれがみれて大満足でした。

 

正面玄関脇には梅が綺麗に咲き誇り、春の訪れを感じる、心地よい見学会となりました。

 

和田菜穂子

東京建築アクセスポイント代表