TOUR

【中央線ツアー】武蔵小金井編

2023.12.16
https://accesspoint.jp/reports/musashikoganei/

日時:2023年12月16日(土)12:40-16:00

見学場所:《ムジナの庭》(o+h/大西麻貴+百田有希/2021)[旧・小金井の家(伊東豊雄/1979)]、《ギャラリーカジオ》(小宮山昭/2016)、《シャトー小金井》(黒川建設/1974)、《旧中村研一邸主屋》(佐藤秀三/1959)、《旧中村研一邸茶室(花侵庵)》(佐藤秀三/1959)、《小金井市民交流センター》(西田勝彦/2011)、《小金井の住宅》(若原一貴/2022)

参加者:16名

ナビゲーター:和田菜穂子・種田元晴


 

今回の目玉は、伊東豊雄の設計で1979年に竣工した「小金井の家」をo+h(大西麻貴+百田有希)が2021年に改修した「ムジナの庭」です。伊東豊雄は1980年頃に「ドミノ」と名付けた鉄骨の骨組みと簡素な外壁・サッシによるローコストな住宅作品シリーズを手掛けますが、「小金井の家」はその原型となった住宅です。一度に入れる人数の都合により、和田チームと種田チームの二手に分かれての時間差ツアーとなりました。

 

「ムジナの庭」の玄関を開けると、正面に、鉄骨のミニマルな階段が吹き抜け空間を介して2階へとまっすぐかけ渡されています。1階奥の子ども部屋だったところは間仕切り壁が取り払われて、お菓子などをつくる調理場に変更されています。玄関脇の主寝室だったところでは、ここでつくられたお菓子や雑貨を展示販売しています。2階に上がると、元はLDKだったスペースが広々とした作業スペースとなっています。ここで、手づくりのおいしいケーキとお茶あるいはコーヒーをいただきました。LDKから階段の方を振り向くと、奥に和室があることに気づきます。ここと階段との間の壁には小さな開口部が新設されていて、建築に行き止まりをつくらない工夫が改修のポイントとして映えています。建築内部に露わになっている鉄骨フレームは、竣工当初はまっ黄色でしたが、後に白く塗られました。改修にあたって、竣工当時の姿を想起しつつ、周囲の木々が持つ自然な黄色を採集した、この地ならではの黄色で塗り改められていました。

 

ところで、「ムジナの庭」は、「はけの道」という、大岡昇平『武蔵野夫人』の舞台にもなった小金井の南側に縦断する緑豊かな崖地(いわゆる国分寺崖線)に面しています。「ムジナ」とは、本来はアナグマを指しますが、ここではタヌキやハクビシンのことを指しています。「ムジナの庭」からこの「はけの道」に沿って西に進むと、「ムジナ坂」というけもの道のような坂があります。夜中にここを通ると、ムジナに化かされると言い伝えられているようです。「はけの道」は、ムジナの生息しやすい自然豊かな地だったということでしょう。そして、今もその自然豊かな武蔵野の面影を残しています。

 

「ムジナ坂」の近くには、画家・中村研一の自邸(主屋)が残る「はけの森美術館」があります。ここには、広大な森のような傾斜した敷地に、ピロティと大きな切妻屋根を持つ山小屋風の住宅が残っています。現在はカフェとして活用されていますが、訪問時は改修中で残念ながら中は見られませんでした。主屋に隣接して、茶室も建てられています。こちらは内部には入れませんがあらかじめリクエストして中をのぞき見られるように開け放っていただきました。主屋、茶室ともに、設計はいずれも、和洋混在数寄屋建築の名手として名高い佐藤秀三によるものです。いずれも、国指定の重要文化財にとなっている由緒ある建築なのです。「ムジナの庭」から「はけの森美術館」に至る途中には、若原一貴理事の設計された「小金井の住宅」も建っています。歴史ある神社に近接して、これを借景にした、ちいさくも多様な空間を内包する逸品です。

 

そのほか、武蔵小金井南側に点在する名建築をいくつか巡りました。その一つが、建築家・小宮山昭さんによる「ギャラリー・カジオ」。連雀通りに面する梶尾眼科(こちらも小宮山氏の設計)のオーナーが隣地を買い足して開いたギャラリーです。この日は小宮山さんによる展示が行われていましたので、在廊されていた小宮山さんから、建築のコンセプトや、これまでのお仕事のことなど、貴重なお話を伺う機会に恵まれました。

 

梶尾眼科のはす向かいには、場末感の漂うマンション「シャトー小金井」が建っています。シャトーシリーズは1960-70年代を席巻した、大手デベのよらない、黒川建設による高級マンションシリーズです。こちらは1974年の竣工ですから、半世紀前の高級マンションですね。圧巻は地下2階のプール。柱を避けて巧みに水槽が配されたダイナミックな空間が広がっています。地下1階にはかつて、人工池に囲まれたラウンジがあったようで、今もその佇まいをしのばせる真っ暗な空間が廃墟的に残っています。2階には元結婚式場を改修したギャラリーがあります。2階へ行く階段がどこにあるのだか、一見よくわからないという迷路的なつくりも興味をそそります。ここは「中央線芸術祭」のメイン会場となるなど、アートの拠点ともなっている大変ユニークな空間です。ツアー参加者の方々からは、今回のツアーで最も印象深かったのはシャトー小金井の地下だった、との意見が挙がるくらい、往年の雑誌「VOW」にでも登場しそうな、秘境の趣が味わい深い空間でした。

 

ツアーの締めくくりは、武蔵小金井南口駅前の「小金井交流センター」です。卵形の空間が、さらにこれを覆う殻に包まれたホールとギャラリーをもつ文化施設です。武蔵小金井南口の駅前は、2010年の中央線高架化に伴って再開発された、新しいエリアです。街並みはかつての姿とは変わってしまいましたが、その街並みを構成する建築の一つひとつは、市民生活を一層豊かにする機能に満ちていました。

 

「ムジナの庭」を主題としながらも、新旧の風景が混在する街を行ったり来たりしながら、街の様々な構成要素を愛でるツアーとなりました。

レポート:種田元晴