晴天に恵まれた12月最初の日曜日、会員向けに、「古澤邸」(古澤 大輔/2019)と「階段の家」(nendo/2019)を訪問するツアーを開催しました。
「古澤邸」は、建築家・古澤大輔氏の自邸です。その斬新な空間構成により、2019年にJIA日本建築大賞を受賞した話題の住宅です。正方形の平面形状にこだわられて、行き止まりに面した狭小な正方形の敷地を何年も探してようやく実現したとのことでした。鉄筋コンクリートラーメン構造の住宅では、ふつうは床の四隅に柱を置いてつくられますが、そうすると、空間の範囲が四隅によって限定されてしまいます。狭小な敷地では、これではよけいに狭い感覚になってしまいます。そこで、柱のフレームを中央部に寄せつつ床スラブとは分離して配し、これまでのふつうの鉄筋コンクリート造の空間では味わったことにない、不思議な感覚の空間を実現させています。バルコニーが空間の半分近くを占めていて、壁もほとんどなく、実に開放感にあふれた住宅なのですが、しかし、手すりや柱や階段などの建築の部位、そして様々な家具などによって巧みに外からの視線が遮られていて、不思議なことに丸見え感が全くありません。開放性とプライバシーを両立させた単純なようでいて複雑な空間造形に圧倒されました。当日は、古澤さんご本人に解説いただきながら、内部をじっくりと見学させていただきました。
「階段の家」は、世界的に有名なデザイナーnendoの佐藤オオキさんが、パートナーである伊藤明裕さんのためにデザインされた住宅です。こちらも行き止まりに面した敷地に建つ住宅なのですが、敷地はやや広め。そして、名前が示す通り、階段が道の延長上に伸びていき、斜めに振られたガラス張りの箱のなかを貫いてそのまま天まで昇っているという、きわめてシンプルながら大変刺激的な構成に驚かされます。巨大な階段の中には玄関と2階3階へ至る階段が仕込まれています。また、1階は親世帯、2階3階は子世帯の2世帯住宅となっています。単純な構成ながら、その外装の白さもあいまって、家具を展示するスタイリッシュなショールームのように輝いていました。こちらは内部には入りませんでしたが、家の前までお邪魔して、伊藤さんのご家族にお話を伺いながら、敷地内からじっくりと拝見させていだきました。
いずれも、位置指定道路の行き止まりに面して大開口を向けた、独創的な半外部空間を持つ、同年に竣工した、RC造による、矩形の、ほぼ一室な、建築家(デザイナー)のための住宅という点で、一見、かなり共通点があるように思えます。しかし、外部との関係のつくり方や(繋ぐ/仕切る)、視線のコントロール(開く/閉じる)、架構の考え方(分離/一体)、階段のあり方(分節/貫入)、敷地の大きさ(狭小/広大)、正面の方位(北面/南面)などなど、実は全く対比的で、両者を比較的にみることで気づくことが多々あり、大変興味深かったです。その対比を味わうかのように、「古澤邸」は中から、「階段の家」は外からそれぞれ、オーナーのお話を伺いつつ拝見しました。見学させていただきありがとうございました。
ナビゲーター:種田元晴