TOUR

中央線ツアー|吉祥寺・三鷹編

2023.09.18
https://accesspoint.jp/reports/chuo-mitaka/

日時:2023年9月18日(月・祝)16:00-18:30

見学場所:《ハモニカ横丁ミタカ》(改修:マウントフジ/2013リニューアル:隈研吾/2017),《松屋フーズ本社ビル》(椎名政夫/2006),《三鷹駅南口ペデストリアンデッキ》(1993-2007),《DECKS》(伊藤博之/2015),《山本有三記念館》(設計者不詳/1926),《玉川上水の家》(堀部安嗣/2008),《三鷹の森ジブリ美術館》(日本設計/2001,改修2016),《ナザレ修道院》(内井昭蔵/1993),《家と道》(中山英之/2013)《井の頭の家》(手嶋保/2018),《まちと公園を纏う家》(中山佳子/2022),《ペパカフェフォレスト》(浅利幸男/2002), 《武蔵野市立吉祥寺図書館》 (鬼頭梓/1986),《ハモニカ横丁》(《てっちゃん/アヒル》:隈研吾/2014,《奄美》: 隈研吾/2018,《エプロン》:東京工業大学塚本由晴研究室/2012)など

参加者:18名

ナビゲーター:種田元晴

撮影・サポート:和田菜穂子


この度、理事となってから初めてのツアーを開催させていただきました。コースは愛着深い吉祥寺・三鷹を選びました。まだまだ残暑の厳しいよく晴れた日で、夕刻からの開始としたものの、集合場所とした三鷹駅改札前の熱気のこもる自由通路でみなさんをお迎えする間に、緊張と気合いもあいまってか、すでに滝の汗というありさまでした。

 

ツアーはまず北口の「ハモニカ横丁ミタカ」(改修:マウントフジ/2013、リニューアル:隈研吾/2017)へ。こちらは本日のゴールである吉祥寺駅前のハモニカ横丁内の飲食店の姉妹店です。パチンコ屋さんがリノベーションされました。廃自転車のホイールを壁面いっぱいに並べた外観が印象的です。再度駅に戻って南口へ。途中、北口駅前に聳える「松屋フーズ本社ビル」(椎名政夫/2006)を見上げます。1階には日本一キレイな松屋が入っています。南口にはペデストリアンデッキ(ペデ)がかかっています。バス・タクシーと歩行者を安全に分離するためのものですが、実はペデは西欧の広場に対応する日本の広場なのではないかとのお話を。西欧の広場は面的に接地、日本のペデは線的で空中ですが、どちらも留まるスペースがあります。街道沿いの宿場のように、日本はもともと線的な場所で交流が行われているんですね。

 

さて、ペデを降りたら玉川上水沿いの「風の散歩道」を南東へ進みます。この道の先には「三鷹の森ジブリ美術館」(宮崎駿+日本設計/2001)があります。まさにその世界観へ誘うような道の名前ですね。道沿いには「玉川上水の家」(堀部安嗣/2008)「御殿山の住宅」(松永安光/2011)「DECKS」(伊藤博之/2015)「山本有三記念館(旧邸)」(設計者不詳/1926)などの名住宅が建ち並んでいます。時代も様式も異なるけれど、いずれも玉川上水近辺の豊かな自然との関係が意識されていて大変気持ちよさそうです。

 

井の頭公園の西園に突き当たったら、そのまま中を突っ切ります。裏手には「ナザレ修道院」(内井昭蔵/1993)があります。ここは内井昭蔵による聖公会系の修道院です。内井の父と祖父は正教会系の教会設計に関わった建築家です。設計中にスペインを訪れたようで、スパニッシュスタイルな外観とガウディっぽい内観を持つなど、宗派を越えた様式が混在しています。このまま井の頭公園池に向かう途中の住宅街にも、「家と道」(中山英之/2010)、「縁木舎」(リノベ:ブルースタジオ/2015)「井の頭の家」(手嶋保/2018)、「まちと公園を纏う家」(中山佳子/2022)、「パークサイドテラス樹」(成川正明/1997)など幾つかの名住宅に出会います。

 

「まちと公園を纏う家」の前を通ると、施主であり設計者である中山佳子さんが出てきてくれました。旗竿敷地を有効活用して、自然豊かな隣地の風景も借りながら公園と連続するセミパブリックなスペースとしたことなどを丁寧に説明してくださり、一同聞き入りました。

 

再び公園に突入、今度は池のある側です。お茶屋さんがオシャレなタイ料理屋さんに生まれ変わった「ペパカフェフォレスト」(浅利幸男/2002)は今日も大変賑わっています。すぐ近くには井の頭弁財天(1197年建立)が。かつては甲州街道からここへと続く参道があり、芸能の神様を拝みに歌舞伎役者なども訪れて大変賑わっていました。吉祥寺は今では北側が表のようですが、かつては公園より南側が表側だったんですね。

 

だんだん日も落ちてきてしまいました。ここからは駆け足で参りましょう。公園を抜けると、いくつかの奇怪な造形に出会います。建築家・「井籠の家」(渡辺洋治/1966)、景観論争を巻き起こした漫画家・楳図かずおの赤白の縞々の自邸「まことちゃんハウス」 (楳図かずお+住友林業/2008)、逆シリンダーのシェル屋根とリブ型枠の力強いコンクリートフレームが印象的な「武蔵野公会堂」(山下和正・林昌二(日建設計工務)/1964)です。公会堂は今後新たな建築家の設計により改修される予定だそうです。

 

ようやく吉祥寺駅まで来ました。しかしまだ終わりません。最後に北口側の名建築をひとつだけ。旧近鉄(現ヨドバシカメラ)裏の「武蔵野市立吉祥寺図書館」(鬼頭梓/1986)へ向かいます。ここは20時までやっています。見どころは既存樹木を避けた半円形の窓、レンガタイルの外観、そして地下からドライエリアを介して2層の開口部で光を取り込む気持ちのいい閲覧スペースです。近鉄裏は風俗店がのさばって治安が悪くなり、この図書館はその対策として実は建てられたものでした(図書館の周りにはいかがわしいお店は建てられないという法規制があります)。

 

すっかりあたりは真っ暗になりました。それでもまだ暑いです。最後はかつてのヤミ市「ハモニカ横丁」へ行って一献。以前は地域の人々向けの物販店が立ち並ぶエリアでしたが、今では赤提灯が連なり外国人が訪れる空間エンタテインメント的な飲食店街として観光地化されています。その空間の面白さを増幅させているのは、隈研吾氏や塚本由晴氏、形見一郎氏などの建築家・インテリアデザイナーによる闇市らしさを踏襲した店舗デザインです。仕掛け人は飲食店群のオーナー手塚一郎氏。建築家との架け橋は吉祥寺に拠点を置く建築ジャーナリストの淵上正幸氏。毎日ハモニカ横丁で呑んでおられる二人にこの日もばったりお会いしました。

 

たくさん歩いた後はビールが美味い!賑わいを肴に酩酊して散会となりました。中央線ツアーシリーズは今後も継続展開の予定です。ご期待ください!

ナビゲーター:種田元晴