朝日カルチャーの講座を受講した方を対象にした建築見学会のシリーズです。講座を補う形で今回は坂倉準三が設計した二つの建築を巡りました。「目で見て、身体で体感して、舌で味わう」という食事付きスペシャルツアーを企画しました。
一つ目は1964年に竣工した天童木工東京支店です。天童木工は、丹下健三、黒川紀章、磯崎新など巨匠建築家等と協働し、名作椅子を数多く生み出してきました。例えば、前川國男のインテリアを担当していた水之江忠臣は図書館の椅子をデザインしています。坂倉準三の事務所にいた長大作も椅子やテーブルのデザインに関わっています。実は国際文化会館に竣工当時に納められた椅子も長大作によるデザインでした。ところがその椅子は数奇な運命を辿り、現在は私が非常勤を勤める慶應義塾大学日吉キャンパス内にある、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計のYMCAチャペルで使われているのです!!
今回の見学ではPR部門の加藤直樹氏にご案内いただきました。加藤さんは祖父の代から3代に渡り、天童木工に勤務されていらっしゃるそうです。愛が伝わってきました!赤、青、黄色の原色を使っているのはコルビュジエの影響でしょうか?私は黄色の階段を見て、黄色はもともと坂倉が好んで使う色なのですが、「これは!!もしかしたらアアルトのパイミオのサナトリウムの階段と同じ色なのでは?」と新たな気づきがありました。また、剥き出しの黄色のパイプなどはパリのポンピドーセンターを彷彿とさせますが、ポンピドーセンターの完成は1977年なので、天童木工東京支店の方が先ですね!!
ところで私は以前山形に住んでいたことがあり、山形県天童市にある、天童木工本社・工場・ショールームを何度か訪ねたことがあります。手仕事と機械による生産ラインを見ることができるので、工場見学はおすすめです!!なお年間でスケジュールが組まれているので、1週間違うだけで、別の家具の工程になっていました。
なお、今後は前川國男が増築した赤いタイルの棟は解体され、SANAA設計の建物になり、川村美術館からマーク・ロスコの絵画が移転されるというニュースを聞きました。それまで隠れ家的な存在で、誰にも教えたくない都会のオアシスとして私のお気に入りの場所だったのですが、再開発の波に飲み込まれてしまい、それが変わってしまうのはとても残念に思います。
レポート:和田菜穂子