日時:2021年6月28日(月)9:30~12:00
見学場所:《世田谷区役所第1庁舎》(1959)、《世田谷区役所第2庁舎》(1969)
参加者:11名
ナビゲーター:磯達雄
今回私たちは建て替えが決まった世田谷区役所を訪れました。ル・コルビジェの弟子の前川國男氏による設計です。このツアーでは1959年竣工の第一庁舎、59年竣工の世田谷区民会館、69年竣工の第二庁舎、そしてそれらからなる広場を中心に見学しました。
まず初めに、第二庁舎を見学しました。外観は前川氏の師匠であるル・コルビジェを想起させるような大きくそったコンクリートの庇が特徴的でした。建物内は前川氏が発案した「打ち込みタイル」が階段周りのコアに用いられているのが興味深かったです。また、議場も見学したのですが、壁材には木が使われていましたが、前川氏が好んで使っていると言われる青色が、出入り口の頭上の壁や床のカーペットに用いられていました。
次に見学した第一庁舎は、建物左端に煙突のようなものがついているのが印象的でした。建物の中に入ると目の前には二階へと続く階段と、その後ろの壁に巨大な芸術作品がありました。また、コンクリートに注目すると、今のものとは異なり木目調の模様が浮き上がって見えました。これはコンクリートを木の型枠に流し込み、それが固まった際にできる木目模様だそうです。第一庁舎に隣接して区民会館がありますが、現在は解体工事が始まり中には入ることはできませんでした。この建物は折板構造が用いられており、中庭から眺めると屏風のような折れ曲がった外観です。そのため、先の二つの建物とは異なる印象を受けました。
最後に私たちは広場を見学しました。実はこの広場こそが前川氏が重要視していた空間で、前川氏は人々が集まる場所となるよう、庁舎建築と区民会館の配置にこだわったそうです。
半世紀以上も使われた世田谷区役所ですが、建て替え計画では使いながら順次新しく生まれ変わっていくそうです。模型の前でコンペでのほかの案の話も伺いましたが、コンペを勝ち取った佐藤総合計画のプランは区民会館だけ残し、あとは前川が大切にしていた中庭型のプランを踏襲したものです。次の区役所がどのようなものになるのか今からとても楽しみです。
学生インターン:太田涼介(慶應義塾大学 文学部2年)
今回はAP会員向けのツアーで世田谷区役所を見学しました。世田谷区役所は前川國男の設計で、第一庁舎、第二庁舎、第三庁舎、区民会館が集まった公共施設です。前川といえば赤いレンガ風の「打ち込みタイル」を使った建物を思い浮かべますが、世田谷区役所はコンクリート打ち放しの「ブルータリズム」と呼ばれる初期の作品になります。
私たちはまず第二庁舎へ向かいました。第二庁舎は第一庁舎の完成から約10年後に建てられました。建物正面の曲線的な庇は前川設計の東京文化会館に似ています。中へ入ると、建物内の床は先ほど通った広場で使われていたタイルと同じものでした。また壁には焼き物の「打ち込みタイル」があり、内装に「打ち込みタイル」を用いるのは珍しく、コンクリートからタイルへと外壁の素材が変わる過程での実験的要素を含んでいるのでは、ということです。そして第二庁舎では今回のツアーの目玉でもある議場の内部見学を行いました。議場の中も建物内部と同様に壁や手すりに曲線的なデザインが用いられていて、前川がデザインによく用いる青色の床が印象的でした。
次に私たちは第一庁舎を見学しました。ピロティで持ち上げられたブリッジが第一庁舎と区民会館を結んでいて、師であるル・コルビュジエの影響を受けていることが伺えます。建物内部に入ると大きなコンクリートのレリーフと緩やかな階段が目に入りました。また、天井部分は格子状のトップライトになっていて、区民に寄り添う優しさを感じました。
最後は区民会館です。区民会館は中には入ることができなかったので外観だけ見学しました。区民会館は折り紙のような壁が特徴的でこの構造を「折板構造」と言います。当時の日本は貧しく材料の節約をしなければならず、少ない材料で大空間をどのように作るか考えた時にこの「折板構造」が理にかなっていたそうです。
建て替えのため庁舎建築は順次取り壊されてしまいますが、前川が大切にした区民が集い、会話が生まれるような空間は今後も受け継がれることでしょう。
学生インターン:井口裕一朗(慶應義塾大学 経済学部4年)