TOUR

「ふたつのレーモンド建築」と「ふたりのアントニン」

2021.10.23
https://accesspoint.jp/reports/ap-gunma/

日時:2021年10月23日(土)9:40~17:00

見学場所:《旧井上房一郎邸》(アントニン・レーモンド+井上房一郎、1952)、《群馬音楽センター》(アントニン・レーモンド、1961)

参加者:7名

ナビゲーター:和田菜穂子

 

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高崎駅周辺にあるレーモンドゆかりの建物を訪れました。最初に《旧井上房一郎邸》(アントニン・レーモンド+井上房一郎、1952)を高崎市美術館の塚越館長に案内していただきました。この建物は、レーモンドの友人で井上工業という建設会社社長の井上氏が、麻布笄町にあったレーモンドの自邸兼事務所を気に入り、実測をもとに再現したものです。当時の技術と物資不足のなか、広い居間を実現するべく「はさみ状トラス工法」が採用されていたり、柱と建具の位置をずらす「芯外し」により庭との一体感を実現していたりと、レーモンドのスタイルが継承されています。一方、井上邸にのみ設けられた和室は、井上氏のこだわりが強く反映されており、軒の線と障子の線で庭を切り取るような景観上の工夫や、通常より低く浅く設定された軽快な床の間などの独自性が見られます。

 

続いて訪れた《群馬音楽センター》(アントニン・レーモンド、1961)は、鉄筋コンクリートの折板構造で、力強い外観や、折板の隙間から差し込む光に包まれるようなホールの大空間が印象的です。ここでは、「ふたりのアントニン~チェコとアメリカ、二つのルーツから~」と題した講演会・演奏会に参加しました。まず最初は東京建築アクセスポイントの磯達雄先生による講演でした。アメリカだけでなく、チェコ・キュビズムの影響も感じられる建築家アントニン・レーモンドと、同じくアメリカとチェコの両方をルーツに持つ作曲家アントニン・ドヴォルザークの共通点が指摘されました。続いての講演では、その人脈を活かしながら日本やアメリカで活躍したレーモンドの生涯と、チェコとの関わりについて伺いました。また、市民オーケストラを起源とする群馬交響楽団の存在、市民のネットワークを活かした募金活動など、独自の過程を経て実現した音楽センターは、日本の公共ホールの在り方を考える上でも重要な意味を持つそうです。このような様々な角度からのお話を踏まえ、最後に群馬交響楽団によるドヴォルザークの演奏を楽しみました。また、講演会の前後には、大きな格子窓が設けられた開放的なロビーで、ゴツゴツとした特徴的な曲線の階段、レーモンドがデザインした大型の壁画などを鑑賞しました。

 

館長が語ってくださった当時の思い出や、講演会を通して、レーモンドと井上の文化に対する考え方が一致し、市民の協力を得られたからこそ、今でも高崎の地にレーモンドの建築が残されているのだろうと感じました。

 

レポート:山東真由子(学生インターン)

慶應義塾大学医学部5年