さぬき倶楽部本館を倉方さんの熱い解説とともに堪能した後は、いよいよお楽しみの懇親会です。会場は別館「花樹海」。ここはかつて御木本幸吉の別邸として建てられた明治時代の木造家屋で築100年あまりの歴史を紡いでいます。今日はここを贅沢に1棟貸し切り状態でした。まずは、食事の前に全館を自由に巡ります。1階にはそれぞれ大きさもデザインも異なる部屋が5部屋あり、網代天井やベンガラの壁など当時からと思われる意匠が残り、ダウンライトの照明がそれらの空間を映し出しています。「琴平の間」は障子のある扇形に抜けた窓から雨に濡れた緑がほのかに浮き立って、落ち着いた個室。「この別館は来年取り壊し予定でしたが、再来年に伸びたみたいです」と仲居さんのお話。2階の「瀬戸の間」への階段は急勾配でしたが、絨毯が敷かれてあって足が滑らないので楽に昇降できます。さて、今日の宴席会場「八栗の間」は、床の間や欄間の造作が繊細な和室で黒いテーブルに朱塗りの椅子がゆったりと置かれています。今日のホスト役の倉方さんのご挨拶と乾杯で和やかに始まりました。自己紹介タイムでは、会員になったきっかけ(これは中銀カプセルが一番多かった)、最近見た建物で印象に残っているものを紹介し合いました。様々な立場の方々が参加しており、建築に対する見解はそれぞれですが、専門家の方がたを交えてフラットに談話できる場所はなかなかありません。まさに会員限定の企画ならではだと思いました。私たちの歓談のざわめき、人の話に聞き入っているときの静寂、一棟貸し切りという空間は見学するだけでは得られないより一層の親和性をもたらしました。次々と運ばれるお料理は香川県の食材を使ったもので、和洋折衷の創作メニュー。建物同様に伝統を守りながら、きらりと光るエッセンスが投入されています。宴も終盤にかかったころに〆の讃岐うどんが登場。御木本幸吉がうどん屋の出身という背景も思い出される一品です。次回は磯さんが主役の懇親会ということで楽しみは続きます。さぬき倶楽部の敷地内には藤田四郎の本宅をリノベーションした「ばんげ」という居酒屋もあり、庭園とともに明治・大正・昭和の面影が残っています。霧雨の中の帰り道、麻布十番とは思えない路地の風情がその余韻をいつまでも残してくれました。
AP会員:Sさん(女性)