日時:2020年12月8日(火)10:00~15:00 / 13日(日)10:00~12:00、13:30~15:30
見学場所:《旧赤星鉄馬邸》(アントニン・レーモンド設計、1934)
参加者:13名、15名、15名
レクチャー講師:竹内雄一(弁護士・銀座栄光法律事務所/武蔵野啓明会)
企画・ナビゲーター:和田菜穂子
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《旧赤星鉄馬邸》(アントニン・レーモンド、1934)は、昭和初期に実業家の邸宅として建てられ、その後修道院として使用されてきました。本ツアーでは、赤星邸の保存活動をされている弁護士の竹内先生によるレクチャーと、和田先生の案内による見学会が行われました。
設計者のレーモンドは、フランク・ロイド・ライトの弟子の一人です。水平線の強調、日本文化の影響、自然との一体性などライトの建築を踏襲しつつ、柔らかい曲線美を追求し、独自のスタイルを生み出しました。
レクチャーでは、随所にみられる聖書のモチーフが邸宅の特徴として紹介されました。玄関の庇や二階廊下に見られる多数の小窓の集合は、繁栄の象徴として神がアブラハムに見せたという満天の星空を、らせん階段は夢枕で神がヤコブに繁栄を約束したという「ヤコブのはしご」の物語を連想させます。レーモンドが、友人である赤星を祝福しているようでもあります。
建物は南側に「く」の字に折れ、東西で機能が分かれています。公的な空間である東側は特に1階部分はガラス戸と蛇腹のフェンスを開ければ外部の庭と連続して使用できますが、子ども部屋など私的な空間である西側は頑丈な格子で外部と区切られています。中央に置かれた夫人室からは全体が見渡せます。
邸内の見どころの一つである玄関脇のらせん階段は、神を仰ぎ見る視点のみを持ったゴシックの塔に対し、上から下への視線も意識して造られたレーモンド独自のモダニズムの塔とも言えるものです。赤星も好んで座ったというらせん階段下の空間では、縦長の窓から入った光が床に作り出す色彩や、美しいカーブによって階段の下面に生まれる陰影を堪能しました。
また、庭に面した大広間では柱を窓から離れたところに置く「芯外し」の技法が使われ、室内と庭の景色の連続性を引き立たせています。各部屋の収納にも力が入れられており、子供部屋には二面から開けられる戸棚、夫人室にはらせん階段状の引き出しなど、使いやすいよう工夫がなされています。邸内の家具はノエミ・レーモンドが設計したものが現在も使用されており、椅子の座り心地などを実際に体験することもできました。
ツアーを通じ、長い間建物を手入れし、丁寧に使い続けてきたシスターたちや、竹内先生はじめ保存運動に関わってきた人たちの強い思いを感じました。建物は今後武蔵野市の所有となり、これから活用方法が検討されるそうです。最後のチャンスに見学会ができたことを嬉しく思います。
レポート:山東真由子(学生インターン)
慶應義塾大学医学部4年