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開かれた「祈りの空間」〜《増上寺塔頭 宝珠院》と《聖オルバン教会》〜

2020.01.18
https://accesspoint.jp/reports/%e9%96%8b%e3%81%8b%e3%82%8c%e3%81%9f%e3%80%8c%e7%a5%88%e3%82%8a%e3%81%ae%e7%a9%ba%e9%96%93%e3%80%8d%e3%80%9c%e3%80%8a%e5%a2%97%e4%b8%8a%e5%af%ba%e5%a1%94%e9%a0%ad-%e5%ae%9d%e7%8f%a0%e9%99%a2%e3%80%8b/

日時:2020年1月18日(土)13:00-16:30

見学場所:《増上寺塔頭 宝珠院》小川真樹(2019) 、《聖オルバン教会》アントニン・レーモンド(1956)、《聖アンデレ教会》香山壽夫(1996)、《アンデレホール》長島孝一(1983)

参加者:15名

ナビゲーター:和田菜穂子

ゲスト:小川真樹(建築家)

 

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みぞれ交じりの底冷えする寒い1日でしたが、二つの宗教建築を巡りました。一つ目は昨年末に竣工した《増上寺塔頭 宝珠院》です。設計者の小川真樹氏に案内していただきました。新しい令和の時代の「開かれたお寺」です。小川氏は古地図や絵図を参考にし、かつてそうであったように、茶店をイメージして設計に取り組んだそうです。参道からみると、閻魔様に始まって、弁財天様、阿弥陀様、薬師様など、古くから伝わる仏像が白い漆喰塗りの壁の前にリニアに鎮座しています。これらの仏像が安置された部屋は私はまるで北欧の教会のようだと感じました。ハイサイドライトの自然光、白の漆喰壁、リブの入った曲面など、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトが設計した教会を彷彿とさせるからです。実際、ぶら下がっている照明器具は北欧のものだそうです。小川氏によれば、劇場のような空間を意識したそうです。

 

二つ目はアントニン・レーモンドが設計した日本聖公会の《聖オルバン教会》です。レーモンドは数多くの教会建築を手がけていますが、それぞれ構造が異なります。《聖オルバン教会》の見所は「シザーズトラス構造」と呼ばれるレーモンド独自の木造の架構で、日本の民家から影響を受けたものと言われています。今回は特別に2階の司教の部屋も見せていただきました。本棚などの収納は竣工当時のまま残っていました。

 

次に、隣接する香山壽夫設計の日本聖公会《聖アンデレ教会》を見学しました。こちらの教会堂には椅子が固定されていません。これは教会の本来の姿だということです。かつては立ったまま、もしくは跪いてお祈りをする場であり、言われてみれば《ニコライ堂》は確かに椅子を置いていません。牧師さんのご厚意により、祭壇裏手のバックヤードにも案内していただきました。

 

二つの聖公会教会の奥にある長島孝一設計の《アンデレホール》はコンクリート打放しの建物です。日曜礼拝後に信者のみなさんが集まる場所です。ハイサイドのガラス窓に四方に囲まれ、自然光が降り注ぐ、明るく開放的な空間になっています。吊りレールによる可動式の壁とその収納の仕組は合理的にできていて感心しました。驚いたのはその反対側にある壁面デザインです。グリッドを生かした収納と思いきや、そのうちのいくつか実は扉になっていて、取手を引くとキッチンカウンターが現れました。

 

こうして二つの異なる宗教施設を比べると、祈りの空間に共通点が浮かび上がってきました。例えば宗教儀式に必要な椅子やテーブルに注目してみると、建築家のこだわりが垣間見れます。お経を上げるときに住職が座る椅子は住職が選んだイタリア製のものだそうですが、それに合わせてテーブルを建築家小川真樹がデザインしてます。あの世は白、この世は黒、その中間領域にあるテーブルは椅子と合わせて茶色のウォールナットで仕上げています。また、教会で司教が座る椅子も建築家香山壽夫がデザインしており、教会と統一したシンプルなデザインです。

 

次回は晴天の日に再訪してみたいと思いました。「開かれた建物」なので、いつでも誰でも気軽に訪れることができます。

和田菜穂子