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母への愛情から生まれた昭和の名住宅《遠山記念館》

2018.6.24
https://accesspoint.jp/reports/%e6%af%8d%e3%81%b8%e3%81%ae%e6%84%9b%e6%83%85%e3%81%8b%e3%82%89%e7%94%9f%e3%81%be%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%98%ad%e5%92%8c%e3%81%ae%e5%90%8d%e4%bd%8f%e5%ae%85%e3%80%8a%e9%81%a0%e5%b1%b1%e8%a8%98%e5%bf%b5/

日時:2018年6月24日(日)13:00~18:00

見学場所:今井兼次《遠山記念館附属美術館》(1970)、《遠山邸》(1936)

参加者:12名

ナビゲーター:磯達雄

解説:依田徹(遠山記念館学芸員)

企画:和田菜穂子

 

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川越駅からバスに乗り、人々でにぎわう蔵造りの街並みを超えた、辺りに畑などが広がる静かな場所に《遠山記念館》はあります。日興証券の創立者である遠山元一が母のために建てた《遠山邸》を中心に、庭園や美術館が敷地内にはあります。

 

まず大きな門をくぐり敷地内に入ると、今井兼次設計の《遠山記念館附属美術館》が現れます。早稲田大学の建築学科である私にとって今井は大先生であり、ガウディにインスピレーションを受けた造形やヒューマニズムの精神などは興味深く感じています。その今井の最後の作品であるこの美術館は、外観は長い蔵のような形態をしながらもディテールには今井らしい繊細で装飾的な造形が見られます。内部空間を見ると、エントランスにはフレスコ画の描かれた柔らかな印象の天井、荻原守衛による彫刻《女》を展示するためにデザインされた階段裏の空間、ステンドグラスによる外光の取り入れなど、落ち着きがありつつも心を揺さぶるデザインが施されています。展示室の採光などは上野のル・コルビュジエの《西洋美術館》と同様に上部に光を取り入れるための箱を浮かしていましたが、現在は展示品保護のために閉じられています。素材の選択にも気を配られており、小さな美術館ながら今井の創り出そうとしていたヒューマニズムの建築空間が体験できました。

 

遠山元一の母のための大きな住居である《遠山邸》は総監督を弟の遠山芳雄がしています。最高級の材と最高の職人技の贅を尽くしたこの住居は、ほとんど芳雄のセンスによって決定がなされたそうです。目立たない部分であっても普通は施されないような技術が用いられたり、部屋ごとに仕上げ方が異なっていたりと非常に贅沢な建物です。100m近くもある廊下によって連結されたそれぞれの部屋は、職人たちの技と一級品の材料のみならず、さらには庭園の風景などとも連動して非常にシークエンシャル且つ躍動的に空間が変化していました。恥ずかしながら私はこの住宅のことをまったく知らずに赴いたのですが、予想以上に素晴らしく、日本建築の空間性とそれがある家族の生活にどのように絡み合うのかということが非常に興味深い建築だと感じました。日本建築が面白くないと感じている人や、海外の人にも是非おすすめしたい素晴らしい建築です。

 

東京からは少し遠い場所にありますが、訪れる価値は十分にある建築たちです。

 

レポート:中村 竜太(学生インターン)

早稲田大学 創造理工学部 建築学科4年