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東京のモダニズム建築を学ぶ   村野藤吾の魅力の源泉

2018.6.9
https://accesspoint.jp/reports/%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e3%81%ae%e3%83%a2%e3%83%80%e3%83%8b%e3%82%ba%e3%83%a0%e5%bb%ba%e7%af%89%e3%82%92%e5%ad%a6%e3%81%b6-%e3%80%80-%e6%9d%91%e9%87%8e%e8%97%a4%e5%90%be%e3%81%ae%e9%ad%85%e5%8a%9b%e3%81%ae/

日時:2018年6月9日(土)13:30~16:00

見学場所:《目黒区総合庁舎(旧千代田生命本社ビル)》(1966)

参加者:23名(OZONEスタッフ2名含む)

ナビゲーター:倉方俊輔

共同企画:東京建築アクセスポイント、リビングセンターOZONE

 

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今回訪問した目黒区総合庁舎は半世紀前に竣工した村野藤吾設計の元千代田生命本社ビルです。倉方先生の解説によれば、広大な敷地は元々アメリカンスクールがあった場所で、竣工当時は各金融機関が競って本社ビルを建設していた頃でした。不幸なことにバブルがはじけて、千代田生命は経営破綻。それを目黒区が一括購入し、既存デザインを生かしながら改修し2003年から総合庁舎として活用しています。

 

私たちは駒沢通りから正面南口へと向かいました。カーブしたスロープを上りきると一気に視界が広がり、ビル全体が目に入るという仕掛けです。ビルの外壁にはアルキャスト(アルミの鋳物)のパーツが使われ、リズミカルで軽快なデザイン。エントランスの車寄せには、雲のようなアルミ製のキャノピーがカーブを描いて建っています。支える円柱は不規則な配置で、倉方先生の指摘によれば、これはモダニズム建築を意識したものであること。また円柱の接地面のカーブや天井面の収まりにも村野さんのディテールへのこだわりが見られます。

 

ロビーは天井が高く、白大理石貼りの空間はまるで美術館の入り口です。倉方先生はここで商業建築に精通していた村野のデザイン力を指摘します。クライアント・ニーズをきちんと反映し、重要な来客を迎え入れるスペースとして、工芸家の協力を得て樹脂製のオブジェやガラスモザイクの天窓、ガラスブロックの妻壁などを配置、当時としては先端的な空間を作り上げたのではないかとのこと。しかも軸線をずらすため、柱の位置を左右で壁簿の内外に振り分け、地窓を設けて外部から明かりを取り入れるなどモダニズムの要素も組み込んでいます。

 

そして、本日のメインとなるのが、結婚式にも使用されるという美しいらせん階段です。倉方先生は優美な曲線だけでなく、軽やかさを演出するためのデザイン(宙に浮いている最下段や階段裏の仕上げ)についても目を向けるようにアドバイス。手すりはオリジナルを尊重した改修により、機能性を確保しつつ美しさを保持しています。ここには改修担当の高い理解力と意識が現れているとの指摘でした。

 

今回は区役所総務課庁舎管理係の方の案内で、普段でも見られない地下の大金庫やテレビのロケでよく使用されるという天井の低い廊下も見学させていただきました。また未来空間のような本館と別館の渡り廊下も見学。デザインに大変特徴のある建物なので、休日には結婚式やロケなどで使われているというお話でした。

 

そして今回のもうひとつのハイライトは、数寄屋造りの和室と茶室、そして茶庭の見学です。和室と茶室は、元々社員の福利厚生施設だったそうですが、現在では区民のために貸し出されています。いずれもモダニズムの要素を取り入れた村野デザインの現代数寄屋造りです。倉方先生も指摘されていましたが、和室にしても茶室にしても、必ずしも伝統的な素材にこだわらないところに村野さんの独特でモダンな美意識が表れています。

 

最後に全景を見渡せる中庭上の階段スペースから池に映る本館の姿を堪能しました。倉方先生はタイムスパンを越えた設計と仰っていましたが、村野さんは設計時点で植栽を含めて50年後の姿を想像できていたのでしょうか?「生きた建築」という言葉がありますが、まさにここは様々な人の思いで「生かされている」建築だなと感じました。

 

 

レポート:大山光彦(ボランティア・スタッフ)