日時:2018年4月28日(土)16:00~19:00
見学先:《クウェート大使館》、《蟻鱒鳶ル》、《建築倉庫》
参加者:9名
特別講師:三宅理一(建築史家)
ナビゲーター:和田菜穂子
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丹下健三が手がけたクウェート大使館は、今春に取り壊しが予定されていましたが、大使館広報部に問い合わせしたところ、その計画は見送られることになったそうです。建物の特徴は、都市の限られた敷地を有効活用するため、2本のコアを設け、上下階を移動するシャフトとし、大使公邸を上部に、大使館オフィスを下部に配置している点です。コアに取り付けられたボリュームの上部には屋上庭園を設け、アラブの建物らしく内側に開いた中庭型プランを上下にアレンジしています。今回、建物の建て替えが見送られ、丹下の名建築が残されることになり、ほっと胸を撫でおろしています。丹下とクウェートとの関係についてですが、この他にもクウェート国際空港(1979竣工)を設計しています。
道路を挟んだ斜向かいに、コンクリートで造られた異様な姿が目を惹く建物があります。その名も《蟻鱒鳶ル》(ありますとんびる)という変わった名の建物です。ところでフランスの片田舎にある《シュバルの理想宮》をご存知でしょうか?地元の郵便配達員がコツコツと石を積み上げ加工し、33年かけて自力で建設した理想の自邸です。《蟻鱒鳶ル》を建設している岡さんもまたコンクリートの可能性に魅せられ、理想の自邸を目指し、地道に建設しています。建設を始めて、早13年経過しているそうです。訪れるごとに岡さんのコンクリート技術が増しているのも見もので、毎回楽しみにしています。岡さんについてもっと詳しく知りたい方は、著書『バベる!自力でビルを建てる男』を是非お買い求めください。
その後、リニューアルオープンした建築倉庫に移動し、展覧会「シャーの建築家たち 丹下健三そしてポスト革命時代」の企画者である三宅理一氏に案内していただきました。展覧会の目玉は、テヘラン新都心計画に関わったルイス・カーンと丹下健三のプランです。1973年からこの二人の建築家はテヘラン新都心のマスタープランを同時並行で作成し、74年の1月にシャーに提出します。カーンはその後、バングラデッシュの国会議事堂の現場に立ち寄ってからアメリカに戻りますが、ペンシルバニア駅で心臓麻痺を起こし亡くなります。カーン亡きあと、二人のマスタープランをまとめる役に指名されたのが磯崎新で、一気に仕上げてシャーに提出します。しかし1978年にイラン革命が起こり、マスタープランも、丹下による新市庁舎、ホテル、アパートなどの建築計画も、全て幻となってしまいました。
また、歴史都市シラーズにはミノル・ヤマサキが設計したシラーズ大学があります。フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトも同時代に現代美術館を設計していますが、やはり革命により実現しませんでした。
革命前にいかにシャーが権力を持ち、国際的に活躍していたスター建築家たちを集め、設計競技を行なっていたのか。丹下健三を筆頭に、日本人建築家たちもこぞってイランの国家プロジェクトに参画していました。彼らが提案した幻の国家プロジェクトの内情を知る、稀有な展覧会でした。
ナビゲーター:和田菜穂子