日時:2020年2月22日(土)11:10~15:00
見学場所:《リフレッツ草津》(竹中工務店/1992)、《草津音楽の森国際コンサートホール》(吉村順三/1991)
参加者:15名
ゲストナビゲーター:萩原剛(元竹中工務店設計部、早稲田大学芸術学校教授)
ナビゲーター:磯達雄
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1980年代~90年代、「デコンストラクティビズム建築(脱構築主義)」と呼ばれる建築手法が世界の名だたる建築家を魅了しました。
面を斜めに傾かせ、角度をずらした軸線の重ね合わせによってダイナミックな空間構成を実現するその手法は、ピーター・アイゼンマンやザハ・ハディド等の建築作品に見ることができます。日本では数少ないですが、その中で貴重な実現例で代表作と言えるのが《草津トリヴィラ》であると磯先生は言います。
《草津トリヴィラ》は竹中グループの保養所として1992年に竣工し、使われました。その後、運営が外部へ委託され《リフレッツ草津》として竹中グループ社員以外の一般客も利用できる宿泊施設となりましたが、2020年2月末で営業を終了するとの事で、その前に建物の設計を担当した萩原剛氏からお話を伺う機会が設けられました。
建物の内部に入り階段を上がると、左手に食堂、正面に客室へ繋がるブリッジが見えてきます。食堂というパブリック性の強い空間と身体を休めるプライベート性の高い客室をどう交えれば上手く両者が融合した空間になるかという事を設計時考えていたそうです。
設計当初、萩原氏は20代後半。設計に当たっては草津の中心地である湯畑から伸びる軸線と、草津白根山からもたらされる強い西風を避けて東に玄関を作るという草津の風習から見出される東西の軸線。その2つの軸線の交差によって建物を構成したというお話でした。
ラウンジでガイダンスを聴いた後、一同は外に出て建物の外観を見学します。
今年の草津は例年になく降雪が少なかった為、建物の周囲を端から端まで廻る事ができました。通常は積雪に阻まれ中々近くを廻る事ができないそうです。
まだ現在ほどパソコンが普及していなかった当時、考え抜いた設計を形にする為に敷地内に実物大のベニヤ模型を作って検証したお話や、草津温泉から吹いてくる酸性(硫黄)の風に対して鉄製の窓枠にさび止めを施す等、完成までに凝らした様々な工夫の話を伺いました。
その後は館内に戻り客室や和室、お風呂場等を拝見。建物全てを萩原さんの案内で満喫させて頂きました。
《リフレッツ草津》を後にして向かったのは、《草津音楽の森国際コンサートホール》(吉村順三/1991)です。
建築家・吉村順三が手掛けたこの建物は、六角形の大ホールを包み込む大屋根が特徴的です。通常冬期は運営していませんが、係りの方が特別に控室や大ホールなど館内の全てを見せて下さいました。大ホールは「六角形」という形も特徴的ですが、舞台後方のスライドが開くと窓から草津の豊かな森を見る事ができます。天井に設けられているトップライトは設備の老朽化でシャッターの開閉が出来なくなってしまったそうですが、この窓から見える風景があるだけでも観客は気持ちよく音に浸る事が出来るのではないかと感じました。
草津では他にも象設計集団が手掛けた湯畑周辺の景観整備や、K計画事務所(北山孝二郎)による御座之湯・湯路広場・熱乃湯など、様々な建築作品を見る事が出来ます。
今回のツアーでは《リフレッツ草津》を見学するだけでなく、前泊して温泉や客室を余すところなく堪能できる機会も設けられました。前泊した方、当日のみ参加した方、いずれの方々も草津の建築を満喫できた事と思います。
レポート:阿久根 直子
(サポートスタッフ)