日時:2018年7月6日(金)10:00~13:00
見学場所:《戸越銀座駅》(1927-2016/東急電鉄+アトリエユニゾン)、《星薬科大学・大講堂》(1924/アントニン・レーモンド)、《ポーラ五反田ビル》(1971/日建設計・林昌二)
参加者:14名
ナビゲーター:倉方俊輔
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待ち合わせ場所の「戸越銀座駅」は都内でも珍しい木の香りのする木造駅舎。駅の入口のデザインも江戸の商家風で、2016年に独特の「木組み」でリニューアルされています。倉方先生は、戸越銀座駅の「木組み」に関連して、現在開催中の「建築の日本展」での展示にも触れられ、共に東大農学部の稲山先生が協力していることを解説。先行するヨーロッパに負けぬよう、建築構造部材としての木材活用を東大農学部(!)が精力的に研究していることに驚きました。
続いて本日のメイン、星薬科大学へ。並木道の通学路の向こうに威容を誇る《大講堂》(1924/レーモンド)が見えてきます。この建物は創立者星一が星製薬設立10周年を記念して、チェコ出身の米国人建築家アントニン・レーモンドに設計を依頼して建設したもの。実業家として成功し、のちに政治家としても活躍した星一(息子は作家の星新一)は、福島出身で若くして米国へ留学。自ら学んだコロンビア大学の壮麗なホールを再現しようと、レーモンドへ依頼したというわけです。あいにくの雨模様で見学も傘が邪魔でしたが、倉方先生の熱心な語り口と意外な話のオンパレードに一同引き込まれました。
倉方先生によれば大講堂の細部を見ていくと、古典主義のテイストも入れながら新しい表現を模索していたレーモンドの痕跡が数多く発見できるとのこと。たとえば、正面ファサードの付け柱は柱頭を付けずにあっさり仕上げている一方、軒下に取り付けられた一連の正方形の飾りは古代ローマ風で、エントランスは軸線を意識した配置で古典主義が感じられます。また、ライトの影響もそこかしこに見受けられ、正面の屋根が低い位置で何層にも水平に重なるのは旧帝国ホテル似のデザインですし、入り口を極端に下げて内部へ誘導するところもライト風です。
講堂内部へは入口中央から軸線を意識した上りのスロープで導かれます。エントランス付近は垂直水平に柱が巡らされ、上下階への移動が階段ではなく、左右に取り付けられたスロープが担うという構造は、モダンなコルビジュエ風です。レーモンドはライトの下を離れ、この極東・日本の地でモダニズムの洗礼を受けながら自分のスタイルを模索していたのではないかという倉方先生の指摘になるほどと思いました。
ホール内部へ入るとその広大なドーム空間を区切る三角形のデザインに圧倒されます。倉方先生によれば、この幾何学的な割り付けはチェコ・キュビズムの影響で、レーモンドはこの後、和風建築からの学びを取り入れた独自のスタイルを完成させていくので、それ以前の過渡期の建物として非常に貴重だとのこと。また、ホール内部のライト風の電灯飾りはレーモンド夫人のノエミによるデザインだそうです。
最後に特別に大学事務局の方にご案内いただき、講堂地下の図書館保存庫も見学しました。貴重な資料が保管されている施設ですが、当時はここがプールだったそうです。この時代の教育施設に屋内プールを設置する点に、創始者・星一のアメリカナイズされた理想主義を垣間見た気がします。歴史資料館ではエジソンや野口英世との交流もあったという星一の広範囲な活動ぶりを印象深く拝見しました。
帰りがけに一部の参加者は五反田へ移動し、倉方先生の説明でモダニズム建築の傑作《ポーラ五反田ビル》(1971/林昌二)をおまけで見学いたしました。意外な立地が驚きでした。
レポート:大山光彦(ボランティア・スタッフ)