日時:2018年6月2日(土)10:15~17:30
見学場所:《三春交流館 まほら》(2003)、《三春町歴史民俗資料館・自由民権記念館》(1982)、《三春町民体育館》(1978)、《三春ダム資料館》(1995) ほか
参加者:11名
ナビゲーター:磯達雄、若原一貴、和田菜穂子
案内人:佐藤哲郎(三春町教育委員会生涯学習課)
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穏やかな天気と風が心地よい6月初旬、東京建築アクセスポイント会員限定のツアーが行われました。
行先は滝桜で有名な福島県田村郡三春町。ここは坂出市人工土地や広島市基町団地など数々の都市計画を手掛けた建築家・大髙正人の生まれ故郷です。今回のツアーでは大髙が三春町で手掛けた建物を中心に多数の建築を見て回りました。見学にあたっては、大髙と三春町が提携して進めた中心市街地再生化計画の現場を10年近く担当していた三春町教育委員会生涯学習課の佐藤さんが案内して下さいました。
まず向かったのは、《三春交流館まほら》(2003)。大髙の最晩年の作品です。交流館には町民の方々が様々な利用を出来るようにシーンを想定して創り上げられた丁寧な仕掛けが沢山ありました。例えば404席ある「まほらホール」は1階客席が全て可動椅子でイベントに応じた使い方が出来るようになっていたり、楽屋は化粧コーナーが壁の中に納まるようになっていたり等です。佐藤さんの案内で「まほらホール」の舞台裏や2階の天井裏も拝見しましたが、桟の間隔を変えて音響効果を高める設計になっているのがとても印象的でした。また館内の事務室の一角には大髙建築設計事務所で使用されていたテーブルと椅子が寄贈されていました。椅子はひと目であの有名なイームズがデザインしたものだとわかります。その他、街並みに調和するように考えられた建物の色味や交流広場にもなる駐車場など、大髙がいかに思い入れを持ってこの建物を設計していたのかを存分に知る事ができました。
続いて《三春町歴史民俗資料館・自由民権記念館》(1982)へ向かいました。こちらは大髙の生地のほど近くで、この場所で幼い頃大髙が遊んでいたそうです。館内部は動きのある空間や大髙が好んで過ごしていたという2階角の休憩室・たたき仕上げの壁など民俗資料と併せて見所が沢山。見学中には案内して下さった館長の山口晋さんが漏らした建物の疑問点を図面から読み取ろうという、東京建築アクセスポイントならではの一幕もありました。大髙が三春町で最初に手掛けた《三春町民体育館》(1978)では、施設の中に入ると正面階段の両横にそびえ立つ大きな構造柱が目に飛び込んできます。対してアリーナの奥側はステージとなっていて、その構造の違いや天井から差し込む光の優しさがとても印象的でした。
その後三春ダムを見下ろす高地に建つ《三春町立中郷小学校》(鈴木恂/1990)に行き、大髙建築とはまた違う造形を楽しんだ後、《三春ダム管理事務所・資料館》(1994・95)へ。それまでと同様に大屋根がかかっている両建築。その内の資料館は三春ダムを見下ろせる角にガラス張りの小部屋を設けてありました。ダムを渡れる街路の様な橋からは水の放流も見れて、普段の生活では接する事の出来ない時間を味わいました。最後は《旧・三春町立桜中学校》(香山壽夫・環境造形研究所/1991)を訪れました。こちらは現在福島ガイナックスが《福島さくら遊学舎》として使用しています。教科教室型のアメリカンスクールスタイルを取られたこの旧校舎では生徒達の個性に焦点を当てられた、動きある空間が印象的でした。
建築家・大髙正人を育んだ自然豊かな福島県田村郡三春町。そこは起伏ある大地と歴史に包まれた、とても温かな場所でした。
レポート:阿久根 直子(学生インターン)
桑沢デザイン研究所デザイン専攻科2年