【舞都和亜(マインド和亜)】の中庭空間 1992 集合住宅
華やかな装飾の外観に誘われる形で正面玄関に入ると、右手に住民専用の中庭(パティオ)が見えます。この建物は中庭を取り囲む形になっており、海をイメージした《カサ・バトリョ》に似た雰囲気を感じました。「梵寿綱と仲間たち」の仕事は回を重ねるごとにお互いの仕事を理解し、総じて豊かなハーモニーを創り出しています。梵氏いわく「次の日の朝、現場に来たら、想像していなかったものが突如出来ていたり・・・」。そうなんです。仲間たちは切磋琢磨に競い合い、梵氏の預かり知らぬところで、より高度な空間づくりが行われていたのです。
【無量寿舞 向台老人ホーム】1985 特別養護老人ホーム
いわゆる老人ホームは、病院とは違い一度入所したら元気になって家に戻ることがない「終の棲家」となります。梵氏から伺った話を例えていうと、「過去の記憶に幸せな情報が付加され、上書きされていく」ような装置が随所に仕掛けてあります。単調になりがちな廊下の天井に、四季折々のステンドグラスが飾られているのもそのひとつ。自分の居室を部屋番号で覚えるのではなく、例えば「こいのぼりの絵を通りすぎると自分の部屋がある」と認識できるように考えられています。
「死」は避けて通れないもの。その時が来るまで、心穏やかにそして幸せな気持ちで日々過ごせるよう、心を込めて芸術家たちが空間づくりをおこなっています。もちろん、そこで働く人、介護する側の気持ちにも寄り添い、空間には和やかな空気が流れていました。向台老人ホームは、梵寿綱とその仲間たちによる「アートコンプレックス」の最高傑作だと私は思っています。
限られた予算内でいかにして最良のものを作り上げるか。コスト管理には非常に厳格で、しかしながら類まれな発想力をもつ梵氏だからこそ、成しえることができた建築だと思います。向台老人ホームの空間を体験してこそ、梵氏が意図する『生命の讃歌』を享受できるのではないでしょうか。
レポート:和田菜穂子