品川区と連携し、企画した1日限りの建築物公開イベントが2019年3月9日に行われた。天候にも恵まれ、心地よい晴天の1日だった。
全部で8つの建築物において、16のイベントが実施された。公開した8つの建築物に関しては、所有者の理解と協力を得たものである。東京デザインセンター、杉野記念館、品川バプテスト教会の3件に関しては、所有者自らが解説を行うツアーが実施された。それ以外は、サポートスタッフが誘導する形での自由見学とした。普段は一般公開していない建築物は、日本音楽高等学校1号館、茶室「有時庵」など5件あり、「特別公開」という位置付けとした。最も入場者数が多かったのは、茶室「有時庵」である。設計者の磯崎新が建築界のノーベル賞と称される「プリツカー賞」を受賞した直後であり、ツイッターなどSNSで話題となっていたことも入場者数が集中した理由と思われる。「事前予約が不要」だったことも、気軽にイベントに参加できるメリットとなった。さらに公開時間が「10時から17時まで」と余裕があったのも功を奏し、狭い茶室でも混乱なくスムーズに公開が行われた。一方、日本音楽高等学校1号館はたった2時間の公開だったため、入場者が集中し、合計264人が訪れた。1時間当たりの入場者数は132人と最も多いが、3階建の建物であり、公開部分が広いため、幸いにも混雑が問題となることはなかった。事前申込で人気のあったイベントは、「品川区の優れたオフィス建築をめぐる」、「荏原から旗の台の建築散歩」、「品川宿の建築に見る職人たちの技」の3つの建築ツアーである。オフィスビル、住宅街、歴史、という異なる視点で企画されたツアーは人気が集中し、高倍率の抽選となった。当選者には「オープンしなけん」オリジナルの布バッグを当日配布し、それを持つことによって「イベントに参加している」という一体感をもたらした。
これら当日のイベント運営を支えてくれたサポートスタッフは、建築関係者を中心に普段から東京アクセスポイントの活動を支援している人たちを中心に社会人と学生で構成した。当日はスタッフの目印として「オープンしなけん」と書かれたビブスを着用し、入場者を促したり、イベントを説明したり、フレキシブルに対応した。イベント3日前にサポートスタッフ、品川区建築課など関係者が集まり、決起集会を行ったのもイベントを盛り上げる契機となった。イベントの全容を知り、それぞれの疑問点をクリアにしてから、イベントに関わることになったため、それぞれが担当としての責任感を持つことに繋がった。品川区建築課のしなけん担当者も参加され、主催者の顔がわかる機会になった意義は大きい。イベントの成否は参加者と直接関わるスタッフの心意気が重要なのである。サポートスタッフによる建物別のイベントレポートに関しては、別紙を参照していただきたい。
イベント当日の締めくくりは東京デザインセンターでのクロージングトークだった。会場の広さの問題があり、事前申込で定員60名を超えたため、当日参加は不可とした。そのため、多少混乱があったようだ。イベントの趣旨を話す機会はこれが唯一であるため、多くの人に参加してもらいたかったが、収容人数や会場に関しては来年度の課題としたい。
総じて、初年度にも関わらず、予想以上の反響があり、参加者の満足度も高く、まずますの成果をもたらしたのではなかろうか。わずか半年たらずで、建物調査も含め、公開イベントまで実施したのはかなりハードワークであった。できる範囲での精一杯の業務を遂行した。次年度へ向け、参加者アンケート、サポートスタッフからの感想やコメント等をもとに次のステップへ進めていきたい。そのためにも品川区とうまく連携を図り、一つでも多くの建物所有者の協力を仰ぎながら、東京やほかの地域に品川区の魅力を発信するイベントを展開していきたい。
和田菜穂子