TOUR

鈴木エドワードの「アナーキテクチャー」をめぐる

2019.10.6
https://accesspoint.jp/reports/%e9%88%b4%e6%9c%a8%e3%82%a8%e3%83%89%e3%83%af%e3%83%bc%e3%83%89%e3%81%ae%e3%80%8c%e3%82%a2%e3%83%8a%e3%83%bc%e3%82%ad%e3%83%86%e3%82%af%e3%83%81%e3%83%a3%e3%83%bc%e3%80%8d%e3%82%92%e3%82%81%e3%81%90/

日時:2019年10月6日(日)9:00~12:00

見学場所:《オークラビルディング》(1981)、《ウェッジ(フジビル原宿)》(1989)、《渋谷警察署宇田川交番》(1985)、《フィジック2B(ライビル)》(1988)、《ウェッブ(バルビゾン43番館)》(1990)、《ジュールA》(1990) ※全て鈴木エドワード氏設計による。

参加者:6名

ナビゲーター:磯達雄

 

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9月15日、1980~90年代を中心に活躍された建築家鈴木エドワード氏がお亡くなりになりました。今回のツアーでは山手線近郊で見る事ができる鈴木氏の作品を巡り、彼の思考そしてポストモダン建築の特徴を学びました。

午前9時、原宿駅に集合した一同がまず向かったのは駅から徒歩5分ほどの場所にある《オークラビルディング》(1981)です。正方形のコンクリートBOXが積み重なったようなデザインの中、正面の螺旋階段周りは積木を省く事で表情を作っているような感じを受けました。

 

続いて同じく原宿の《ウェッジ(フジビル原宿)》(1989)へ。氏はアナーキテクチャー(アナーキーとアーキテクチャーの造語)という独自の考え方を持って活動されていましたが、《ウェッジ》は何よりもファサードに走っている亀裂のデザインが特徴的でした。特筆すべきはそのデザインがあくまでファサードのみであるという点。この特徴はポストモダン建築全体に見られる物で、建物本体の空間デザインとファサードは関係なくて大丈夫という考え方であるという話でした。

80年代は中小ビルを設計する事が若手建築家の登竜門で、今も昔もファッションを中心とした中小ビルが軒を連ねている「原宿」という場としても個性豊かな設計をする事が求められていた。そんな話も伺えました。

 

その後向かった渋谷では《渋谷警察署宇田川交番》(1985)を外から見学しました。1980年代は様々な建築家が交番の設計を手掛けています。その中でも有名な《渋谷警察署宇田川交番》は正面から見ると鼻のようにも見える尖った庇が特徴的です。また、正面向かって右手には、屋根の近くに丸い穴(雨どい)が見えます。完成当時はここからまるで機関銃のような丸い筒が伸び、そこに造花が一輪挿してあったそうです。これはヒッピー文化に浸っていた鈴木氏が対立していた警察の交番の設計を手掛けたという事に対する複雑な思いの表れではないかというのが磯先生の見解でした。

渋谷を後にして目黒に向かいます。途中車窓から《フィジック2B(ライビル)》(1985)もちらりと見学しました。

 

目黒で見学したのは《ウェッブ(バルビゾン43番館)》(1990)という緑の外壁が特徴的なビル。この《ウェッブ(バルビゾン43番館)》を手掛けた頃はポストモダン建築が下火になってきた頃という事で、それまで見学したどのビルとも違うデザインでした。それまでは建物の空間デザインとファサードが分離していましたが、《ウェッブ》では作品名の由来でもあるワイヤーが建物全体を囲んでいて、それが2層吹き抜けのバルコニーと街の境界線になっているような感じを受けました。

 

最後は麻布十番駅と直結しているビル《ジュールA》(1990)へ。歩道から階段を上がると贅沢な吹き抜け空間が目に入ります。また首都高速に面した外壁はトラスフレームと所々破れたようなデザインのメッシュで覆われていますが、これは高速のノイズをファサードで表現した物という事でした。更に《ジュールA》は交差点の角地に建っています。麻布十番には昔からの情緒ある街並みが残っていますが、高速のノイズからその情緒を守っているような佇まいである点も印象的でした。

 

今回巡った山手線沿線に残る鈴木エドワード氏の作品はどれも参加者の皆様が日頃何気なく目にしていた建物です。それを改めてナビゲーターの解説の元、全員で様々な意見交換をしながら見て回った事で、時代背景や社会背景・街の特徴に想いを巡らせる事もできました。

小雨が降る中でしたが充実した3時間を過ごせた事と思います。

 

 

レポート:阿久根 直子

(サポートスタッフ)