TOUR

北欧モダンハウスを訪ねる旅 コペンハーゲン7日間【参加者によるレポート1】

2017.09.12-18
https://accesspoint.jp/reports/%e5%8c%97%e6%ac%a7%e3%83%a2%e3%83%80%e3%83%b3%e3%83%8f%e3%82%a6%e3%82%b9%e3%82%92%e8%a8%aa%e3%81%ad%e3%82%8b%e6%97%85%e3%80%80%e3%82%b3%e3%83%9a%e3%83%b3%e3%83%8f%e3%83%bc%e3%82%b2%e3%83%b37-3/

2017年9月12日〜18日まで、渡航時間を除く、正味5日間の建築見学ツアーに参加しました。到着地はデンマークのコペンハーゲン。現地は日本より季節が進み、秋に差し掛かった頃で、短い夏を名残惜しむかのように、秋冬物の上着姿の人々が、オープンカフェでくつろぐ姿が印象的でした。これから訪れるデンマークの辛く長い冬が間近に迫っていながらも、まだまだ活動的な人々の様子を見ると、この国の豊かなライフスタイルやデザイン大国である所以が、季節の変わり目に幅広く拝見できそうで、期待に胸躍らせました。

 

北欧デザイン全般に興味のある方を対象としたスタディーツアーでしたが、最終的にエントリーした参加者全員が、住宅の設計に従事しているということもあり、「住まいを豊かにするヒント」を学ぶためのメニューが、ナビゲーターである和田氏によって緻密に計画されていました。

 

その概要は、デンマークの首都コペンハーゲンに的を絞り、宿泊先は期間中変更せず、連日市内とその近郊まで足を延ばし、戦前のモダンハウスから現代の最新集合住宅まで、様々なタイプの住宅を中心に見学するという、参加者にとっては大変魅力的な内容で、美術館等公共建築も見学先に組み込まれ、時には分刻みで移動し、毎日二万歩以上を軽く超えるハードなツアーとなりました。

 

主な見学先は、到着日夕刻より、クリスチャンハウンの運河に浮かぶボートハウス、国内在住の日本人でも足を踏み入れないというクリスチャニア地区。翌朝から、ヨーン・ウッツォンのキンゴーハウス(日本人オーナー宅)、BIGの海運博物館、日本・デンマーク外交関係樹立150周年を記念して開催されていた三分一博志氏の個展(旧地下貯水場に展開するインスタレーション)、ヤコブセンのステリングビル。2日目、インテリア雑誌エル・デコさながらのモダンハウスを数件(各オーナーによる案内)、ウッツォンの自邸(長男のヤンさん自ら案内)、夕暮れ前のからディナーまでを、和田氏が世界で最も素晴らしい美術館と絶賛する、ルイジアナ現代美術館で満喫。3日目、ウッツォンのバウスベア教会、モーンス・ラッセン設計の近代住宅遺産、そしてツアー直前に急遽見学可能となった、50年代住宅の傑作と言われているグンログソン邸。4日目、コペンハーゲン市内観光としてカナルツアーを利用し、運河から大規模建築(ヤコブセンのデンマーク国立銀行やシュミット・ハマー&ラッセンのブラックダイヤモンド他)、続いて今回の目玉の一つ、SASロイヤルホテルの606号室ヤコブセンスイート(現在は客室としては使用されていない)、さらには郊外に出てザハ・ハディドのオードロップゴーミュージアム新館、フィンユール邸、戦前のヤコブセン自邸、夕暮れとともにクランペンボーへ移動し、ベルビュービーチ沿いのヤコブセンの一連の作品群。最終日は、宿泊先近くのBIGの集合住宅建築群を一通りトレースし、世界の住まいのトレンドをチェック。

 

あくまで概略を書きましたが、実際に訪問先で建築内部をじっくり見学し、移動中は市内、郊外問わず、風景を通じて目に飛び込んでくるもの全ての情報を終日受け止めているので、一日が終了すると、参加者の疲労も隠せないほどでした。想像通りではありましたが、国内において、建築家や芸術家の知名度は高く、彼らの生んだ作品には高い価値がつくとともに、所有者に愛情を持って大切に維持されていました。歴史的・建築的価値の高い建築物を財団が買い取り、オリジナルに修理改善し、その建物を貸し出し、借り手は建築の管理とともに見学者に家を公開する仕組みや、国が個人住宅を文化遺産として認定し、工事費の補助とともに、改修のイニシアチブを握る仕組みがあることにも感心しました。よってその仕組み等に支えられ、使われ続けている建築物はコンディションも良く、ヤコブセンの戦前の建築群などは、とても80年以上経過しているとは思えない輝きを放っていました。

 

その他、市内や郊外のごく普通の集合住宅の大きなバルコニーに置かれた家具や植栽、戸建て住宅の手入れが行き届いた玄関や庭、出窓から見えるインテリアやディスプレイ(昼夜問わずあまりカーテンを引かない)と、何もかもが素敵でした。そこには、デンマークの身の丈にあった暮らし、家族の時間を大切にしている生活ぶりもよく伝わってきました。

 

もう少し建築的視点で考察すると、建築の種類を問わず、周囲のコンテクストや地形のアンジュレーションに合わせて綿密に計画された建築が、その土地になじんでいるので、外観のプロポーションはもちろんのこと、中から見える景色も素晴らしく、とても居心地の良い(良さそうな)建築ばかりでした。

 

「窓」を通じて常に外と繋がっている気持ち良さは、外からも容易に想像できましたし、デンマークにおいては、建築と外部(庭や景色)の価値が、ほぼ同等に置かれていることも印象的でした。日本の都市型住宅のそれとは、住宅事情やライフスタイルが異なるとはいえ、明らかに「住まい」が豊かに感じられました。

 

帰国する最終日は休日でしたので、BIGの集合住宅のバルコニーの植栽越しに、仲間でランチを楽しむ賑やかな声が聞こえました。そこには、日本の休日と全く同じ日常があり、豊かな生活が育まれている居場所があるのでしょう。そして、これからも住まいに関わる仕事に従事する者として、そのような場所をたくさん提案したいと再認識しました。また、長い年月をかけて熟成してゆく建築、建物全体が呼吸して生きているような建築に、改めて魅力を感じるとともに、「建築と人の関わり方」について深く考えさせられました。

 

最後に、ご留学時の経験や現地の人脈を駆使し、訪問先での対応やスケジュール変更調整等、常に見学の質を高める気配りをしてくださいました、ナビゲーターの和田氏に厚く御礼申し上げます。

 

工務店設計部勤務 高橋あきら