日時:2017年11月13日(月)13:20~17:00
見学場所:グランドプリンスホテル新高輪(飛天の間、茶寮「惠庵」「秀明」など)
参加者:14名
ゲストナビゲーター:佐藤健治(建築家・元村野・森建築事務所所員)
企画:和田菜穂子
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秋晴れの気持ちの良い陽気の中、村野・森建築事務所元所員の佐藤健治氏の解説で、村野藤吾建築のディテールに触れるツアーが行われました。創業当時からロビーに設置されている小山敬三氏の巨大な壁画の前からツアーは始まりました。
まずはホテルの外に出て、客室棟のエレベーター等が設置された塔の外観を見学しました。ここで印象的だったのは村野藤吾建築の特徴でもある地面から生えてきた様な建物の在り方と陰影の作り方でした。村野氏は感じる側に選択肢を持たせるような柔らかい陰影を好み、鋭いのを嫌っていたそうです。それは塔の脚元に広がる特徴的なタイルが生み出す影の様子等から伺う事ができました。
続いて向かった大宴会場「飛天」では、その大ホールに向かうまでのエントランスホール「うずしお」の通路の在り方が特徴的でした。この通路はスロープで階下に降りて行く様になっています。まっすぐ降りるのでは無く緩やかなカーブを1度折り返して降りるという、独特の溜めや焦らしが演出されていました。それはまるで和風建築の路地のようです。「飛天」には日生劇場で用いられたアコヤ貝で天井が覆われていて、チェコ製のシャンデリアが花を添えている、とても華やかな空間でした。
その後向かった、竣工当時から変わらず残されている客室ではユニットバスが特に印象的でした。開発に関わっていたという村野氏が手がけたセミユニットバスでは、ここでも影に対する思想を目にする事ができました。洗面台の角や浴槽の床からの立ち上がりがカーブを描いていて、柔らかさが造り出されていたのです。
茶寮「惠庵」や屋上和室「秀明」では、本歌取りと言われる有名数寄屋建築の写しが村野流に昇華され、その力量がふんだんに発揮されていました。例えば屋根の蓑甲と呼ばれる形状がすごく薄い造形になっていたり、残月亭写しの、通常蹴込み板で一段上がってる床の間の段差を下げてヒエラルキーを無くしていたり、職人との対話によって玄関天井が細かい網代で仕上げられていたり。などなど、挙げ続ければきりがない程沢山の村野流数寄屋建築を、佐藤氏が元所員としての裏話も合わせて解説して下さいました。
最後におとずれたバーあさまは、竣工当時から殆ど変わらない姿を留めていて一番村野藤吾らしい空間を堪能する事ができました。
村野氏の建築は同時代の建築家とは異なり、色気があって想い出の背景が記憶に残るような、個人の感覚に響いてくる世界観が特徴的です。今回のツアーではその独特の世界観がどのように発揮されているのか、じっくりと辿る事ができました。是非、ホテルを訪れる機会があったら、村野藤吾氏の世界観に身を委ねて感覚を研ぎ澄ませる事をお勧めしたい、そう思わせるツアーでした。
レポート:阿久根 直子(学生インターン)
桑沢デザイン研究所デザイン専攻科1年