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村野藤吾の《ルーテル学院大学》

2018.6.26
https://accesspoint.jp/reports/%e6%9d%91%e9%87%8e%e8%97%a4%e5%90%be%e3%81%ae%e3%80%8a%e3%83%ab%e3%83%bc%e3%83%86%e3%83%ab%e5%ad%a6%e9%99%a2%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e3%80%8b/

日時:2018年6月26日(火)13:00~16:00

見学場所:《ルーテル学院大学》(1969)

参加者:17名

ゲストナビゲーター:佐藤健治(元村野・森建築事務所所員)

企画:和田菜穂子

 

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夏本番を迎えようとしている6月下旬、村野藤吾の設計により1969年に建てられた《ルーテル学院大学》を訪れました。今回案内して下さったのは、元村野・森建築事務所所員の建築家・佐藤健治さんです。

 

《ルーテル学院大学》は日本福音ルーテル教会を母体として設立されました。ルーテル派の教義、「生活の中に神がいる」、自分自身を見つめ、常に神と共にあるという思想を根幹として計画された複合的な大学建築です。数々のカトリック系教会建築を手がけていた村野ですが、プロテスタント系はこの作品だけとのことです。この作品で最も重要な点は「神の家」ではなく「神の民の家」ということで、その考え方は村野自身の建築哲学と共鳴し、造形として、空間として重層的に表現されているそうです。各棟は中世の修道院のように廻廊によって繋がり、随所に施された村野ならではの繊細な“光”と“陰翳”の演出によって、ここに集う人たちの心は鎮まり、精神が導かれるように設えられていました。

 

外観はコンクリートの打ち放しにモルタルスタッコを荒く吹付けた仕上げで、カトリックの教会建築とは異なる、親密なスケールで連続して地面や樹木と融合するような造形表現がとても魅力的でした。また、各棟は多面形やマッスの構成、壁面の連続等それぞれが独特な形となっており、荒々しいスタッコと相俟って、光のグラデーションや繊細で深い陰翳が美しく、人の心に寄り添うような優しさを感じる事が出来ました。

 

礼拝堂やエントランスには低い窓、和風建築でいう所の地窓が設えられています。カトリックでは視線が上へ上へと導かれますが、ここでは全く逆の地面へと視線が向かうようになっているそうです。また、そこには村野自身が作庭した小さな坪庭があり、禅寺を思わせる趣がありました。礼拝堂への入り口は橋を渡るように設えられていて、これは国の重要文化財に指定させている広島の世界記念聖堂と同じだそうです。日本の伝統的な精神性を現代の教会建築に取り込むことで、日本人がより自身の心と対話しやすくなるようにと村野は考えたのかもしれない。そう佐藤さんはおっしゃっていました。

 

また、村野は身体感覚を最も大切にすると佐藤さんは述べます。その特徴が最もよく表れているのが階段です。《ルーテル学院大学》に設けられている階段はどれも質素ですが、最初の踊り場を低い位置に設けたり、頭上にくるササラ(階段の端部)を軽く見せるために施されたディテールや、図書館の螺旋階段のトップライトから差し込む光によって生み出される陰翳など、ちょっとした所がたまらなく美しかったです。図書館の構造梁がXの字で交差しているのも特徴的でした。

 

学生用の寄宿舎の外観は、連続する出窓が印象的でした。教職員宿舎は佐藤さんが「隠れた名作」と述べる建物。裏手にある深い緑に囲まれたキューブが複雑に立体構成された造形で、とても見応えがありました。

 

この大学の設計を誰に依頼するかというアドバイザーとして来日したアメリカの建築家ソビック氏は、数多い日本の建築家の中で村野の作品だけに「さあ、おいで、一緒に住もう」という思いを感じたそうです。その思いが投影された《ルーテル学院大学》。建築と人、宗教の関わり方を改めて感じた濃い3時間でした。

 

 

阿久根 直子(学生インターン)

桑沢デザイン研究所デザイン専攻科2年