TOUR

【AP会員研修】大谷石の近代建築探訪

2017.11.25
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日時:2017年11月25日(土)

見学場所:旧篠原家住宅、宇都宮大学峰キャンパス、カトリック松が峰教会、悠日カフェ、日本聖公会宇都宮聖ヨハネ教会、旧宇都宮商工会議所、屏風岩石材石蔵、旧大谷公会堂、大久保石材店、ホテル岩、大谷資料館

参加者:15名

ゲスト講師:安森亮雄(宇都宮大学准教授)/ ナビゲーター:磯達雄 / 企画:和田菜穂子

 

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会員および関係者限定の研修ツアー。行き先は栃木県の宇都宮市と大谷町。大谷石は建築家フランク・ロイド・ライトが旧帝国ホテル(1923年)に用いた事で有名な凝灰岩の一種です。ツアーを通じ、大谷石がどの様に人々の暮らしに息づいてきたのか学ぶことができました。

 

朝7時、東京駅からバスで出発し、旧篠原家住宅へ。かつて醤油醸造業や肥料商を営んでいた豪商で、主屋の外観や3つの石蔵に大谷石がふんだんに使われています。ゲスト講師の安森先生(宇都宮大学准教授)から大谷石の特性など伺いました。大谷石は軽くて加工しやすく耐火性に優れていて「ミソ」と呼ばれる斑点のある素朴な土に近い肌合いが特徴です。旧篠原家住宅では防火の為に大谷石が貼られた造りになっています。主屋の大黒柱がそのまま2階和室の床柱になっていたり、モダンな型ガラスが縁側の窓に使われているなど、商家としての魅力にも溢れた住宅でした。

 

続いて向かったのは、宇都宮大学峰キャンパス。フランス式庭園と旧図書館書庫、旧高等農林学校講堂を見学しました。フランス式庭園は幾何学的な構成の庭園で、歩道の敷石や塔に大谷石が使用されていました。旧図書館書庫は現在のUUプラザの所に建っていた本館と渡り廊下で繋がっていた書庫で、大正時代に造られた厚さ40cmの大谷石からなる完全な組積造の棟と、昭和30年代に鉄筋コンクリート造で柱と梁の間に大谷石が積まれた棟の二つがあります。年月を経たその独特な雰囲気が、鮮やかに色づいた銀杏と相まって美しい風景を作り出していました。旧図書館書庫に隣接する旧高等農林学校講堂は大正13年に建てられた建物で、木造ですが床内部の束石に大谷石が使用されていました。

 

カトリック松が峰教会は1932年に竣工したロマネスク様式の教会で、鉄筋コンクリート造に大谷石で仕上げた造りが他の教会では見られない風情になっていました。当日は結婚式が行われていて外部見学のみの予定だったのですが、幸いな事に係りの人が3階の見学席からであれば覗いていいと許可を下さり、内部を堪能しながら神父様のユニークな説教を聴く事が出来ました。ランチは大谷石の米蔵を改造した悠日カフェ。古木材が蔵の内部に組まれた独特な空間で、大谷石が人の手によってツルハシで切り出されていた時代ならではの風合いを観賞できました。

 

午後からはイギリス風のゴシック様式で造られた日本聖公会宇都宮聖ヨハネ教会を外から見学した後、栃木県中央公園に一部解体移築された旧宇都宮商工会議所を見学へ訪れました。旧宇都宮商工会議所はフランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルが完成した5年後に建てられたもので、随所にその影響が見受けられました。中央公園では建物と紅葉のコラボレーション、池に映り込んだ赤く染まった木など、この季節ならではの情景を参加者の皆様と一緒に思う存分楽しむ事が出来ました。

 

大谷町では、屏風岩石材の石蔵が玄関口に当たります。左右に建てられた大谷石造の蔵は圧巻の一言。参加者の皆様からも次々と「すごい!」の声が上がっていました。左右共に明治時代に建てられたそうですが、それぞれが洋風窓に寄棟屋根と切妻屋根の和洋折衷で造られていて見応えたっぷり。職人が地域資源の大谷石をアピールする為に腕をふるった様子が十分に見て取れました。続いて向かった旧大谷公会堂は更田時蔵氏によって昭和4年に建てられた建物で、フランク・ロイド・ライトの影響が感じられました。残念な事に現在は建物の有効活用がされていませんでしたが、移築保存運動が進められているとの事で、今後に期待が出来ます。その後、天然の大谷石をくり抜いて造られた大久保石材店、その昔トロッコで大谷石を運びやすいように高さが上げられたプラットホーム、天狗の投石と呼ばれる自然の造形、高さ27mの平和観音像、フランク・ロイド・ライドが旧帝国ホテル専用に求めた山の採石場跡地などを見学しました。

 

最後に訪れたのは大谷資料館。地下30mに渡って広がるその巨大な採掘場跡地はライトアップの効果もあって、とても神秘的な雰囲気でした。上を見上げるとかつて手で時間をかけて掘り出していった跡や、どの場所を掘っているのか確かめる為の空洞等があり、視線を下げると機械で掘った形跡が見て取れ、巨大な地下空間がただの採掘場跡地とは言い難いある種の芸術性を感じました。

 

ツアー全般を通じ、安森先生のおかげでより深く大谷石を知ることができ、他では得難い体験ができました。「石」と一言では済まされない、様々な人の関わりや交通網・産業の発達が隠されているのだと改めて実感した一日となりました。

 

レポート:阿久根 直子(学生インターン)

桑沢デザイン研究所デザイン専攻科1年

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参加者のコメント
ツアー講師の安森先生(宇都宮大学)に誘われたこともあり、これまで訪れる機会がなかった大谷資料館を見たくて参加した。大谷資料館は、もちろん期待を裏切らなかったのだが、それ以上に、宇都宮中心市街地に点在する大谷石の近代建築群、大谷町の石材採掘の産業遺産や景観など、大谷石という建築素材を通じて地域の文化や伝統、熱意を感じることができる期待を上回るツアーだった。安森先生、関係者の皆さま、ありがとうございました。
上野武(千葉大学大学院教授)