TOUR

伊東忠太トークツアー「東京都慰霊堂から北斎美術館まで」

2017.02.11.
https://accesspoint.jp/reports/%e4%bc%8a%e6%9d%b1%e5%bf%a0%e5%a4%aa%e3%83%88%e3%83%bc%e3%82%af%e3%83%84%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%80%8c%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e9%83%bd%e6%85%b0%e9%9c%8a%e5%a0%82%e3%81%8b%e3%82%89%e5%8c%97%e6%96%8e%e7%be%8e/

日時:2017年2月11日(土)13:00~17:00

見学場所:両国駅、国技館、江戸東京博物館、東京都慰霊堂、震災復興記念館、すみだ北斎美術館、ヨシダ印刷東京本社

参加者:10名

ナビゲーター:倉方俊輔

 

 

今年は伊東忠太の生誕150年! 彼は1867年生まれです。日本建築史の正統の創始者にして、異端の建築家です。この記念すべき年を祝して、伊東忠太研究の第一人者である倉方俊輔と、彼の設計した建築を巡るツアーを企画しました。その第一弾として、両国にそびえる《東京都慰霊堂》をツアーの核として巡りました。これは関東大震災の犠牲者を弔う震災記念堂として1931年に完成したものです。交差する建築史研究者と建築家、伊東忠太の2つの顔を読み解いていきました。隣に建つ《復興記念館》も鑑賞し、時代の背景を学びました。そして近辺の話題と言えば、妹島和世氏の設計で昨年に開館した《すみだ北斎美術館》。こちらも背景から見ていくと、建築家の個性の読み解きにも深みが増します。《江戸東京博物館》の建設以降、この地域がどのような地域力向上の取り組みを行ってきたのか。妹島和世さんによる、もう1つの建築もご案内しながら、一見すると見えづらい北斎通りのまちづくりのポイントとなる場所を歩きました。

 

伊東忠太研究で博士号を取得した倉方によるトークツアー。伊東忠太論を語らせたら、倉方の右に出るものはおりません。伊東忠太は建築史家であり、建築家でもあり、ふたつの顔を持ち合わせていました。東洋と西洋の建築史について深い造詣があったからこそ、様式主義の彼が行き着いたのが《東京都慰霊堂》だったのです。異色の建築家、伊東忠太に迫るこのツアーは、希望者のみ(といっても全員)時間を延長することになりましたが、充分に倉方節を楽しむことができました。

 

まずは《両国駅》から。武蔵の国と下総の国のふたつを結ぶ両国橋があり、最初は両国橋駅という名でスタートしたターミナル駅でした。ヨーロッパではターミナル駅は終着駅としてその街の顔となっています。この両国駅(西口)も正面性を意識し、三連アーチの入り口がアールデコ風になっています。現在の駅舎は関東大震災後に鉄筋コンクリート造として建て替えたものです。かつての待合室は、先日「江戸のれん」としてオープンし、賑わっています。

 

ふたつの巨大建築、《国技館》と《江戸東京博物館》は、ターミナル駅だった両国駅の以前の車両場の敷地を再活用したもの。神輿をイメージした江戸東京博物館は、作品を洪水から守るために、大地から持ち上げ、ピロティにしたという菊竹さん。幼少の頃のトラウマなのでしょうか?

 

ツアーのハイライト、倉方によれば《築地本願寺》よりも《東京都慰霊堂》の方を伊東忠太の傑作として位置付けています。解説を聞くと「なるほど」と納得します。伊東忠太は法隆寺建築論を発表し、日本建築史学を提唱します。さらに中国、インド、トルコなどを旅した経験や西洋建築史の大家であったことから、洋の東西を問わず建築様式の断片をこの慰霊堂建築の随所に取り入れています。関東大震災で亡くなった方を祀るための建物は不燃の鉄筋コンクリート造とし、「純日本風」を意識し、法隆寺などの木造社寺建築の造形を取り入れている一方で、西洋のバジリカ式の教会と同じ十字架の配置を取っているのです。

 

隣接する《震災復興記念館》は無料の施設です。スクラッチタイル張りのライト風デザインで、頭上にある妖怪は一見すると伊東忠太風でもありますが、よくみると印象が異なります。伊東忠太のデザインする妖怪は、慰霊堂の入り口裏にある、光の玉に口を開けてかぶりつく妖怪の照明が示すように、愛嬌があるものが多いのです。展示内容は帝都復興展覧会に出品した模型など、かなり見ごたえあります。災害や戦災の歴史を伝えるため工夫された展示になっており、今時のプレゼンテーションよりもヴィジュアルのインパクトが強く伝わってきます。

 

ツアーの最後は《すみだ北斎美術館》へ。妹島さん設計の《ヨシダ印刷本社》も徒歩圏にあり、ふたつの妹島建築を見比べて、デザインの特徴を分析。

 

倉方による伊東忠太ツアーはまた行われますので、見逃した方は次回のチャンスをお楽しみに!

レポート:和田菜穂子